山下ピー・エム・コンサルタンツは、建設業界のコンストラクションマネージャの草分け的存在だ。これまで、数多くの企業の施設を生み出してきた。同社の手法が特徴的なのは、施設建築を企業が直面する経営課題と結びつけてプロジェクトを運営すること。その実績と今の建設業界の課題をテーマにした『施設参謀』を上梓した同社社長・川原秀仁氏に、「施設参謀」という新しい職能と、これからの建設業界について話を伺った。

 最新技術やデザインセンスを生かして最良の建物をつくる、といったことは当たり前の話です。この施設がいちばん利益を出すにはどうしたらいいか、事業を発展させていくためにこの施設に何が必要か、といった課題を解決してはじめて、事業と施設が関係づけられるのです。そのためには、クライアント企業の理解を得ながら戦略を練り上げていく必要があります。

事業の仕組みに絡み合う施設とは、
具体的にはどのようなことなのか

川原秀仁(かわはら・ひでひと)
株式会社山下ピー・エム・コンサルタンツ 代表取締役社長 1960年、佐賀県唐津市生まれ。大学卒業後、農用地開発/整備公団、JICA等を経て、山下設計に入社。1999年より山下ピー・エム・コンサルタンツの創業メンバーとして参画し、国内のCM(コンストラクションマネジメント)技術の礎を築く。近年は事業創造や事業戦略策定の支援、CRE/PRE戦略を群単位で解決する業務など、幅広い領域の総合マネジメント業務を展開中。地元唐津の波で揉まれたサーフィンの腕前は今も顕在で、週末は波を追うというアクティブな一面も。

 最近手掛けた案件ですが、複数の合併を経て今日に至る企業があり、そこが新本社ビルを建てるというのです。その企業の大きな課題は、元の会社の文化をそれぞれの社員が引きずっていることでした。全社一丸となって打って出るための新本社建築です。しかし当初はその方針もバラバラで、1つの企画にまとめあげることすら困難な状況に立ち至っていました。

 そこで、業界にゆかりのある古い土地に新本社を建てることにしました。自らの歴史に学んでほしいという意図からです。複数の所有地を売却して、1ヵ所の土地を購入したので、資産のムダを省くこともできました。

 新しくできた本社には、中央に大きな広場のような空間をつくり、社員が自室から必ずそこを通って行き来できるように設計したのです。結果的に社員のコミュニケーションは向上し、経営者からは大変喜ばれました。

実際に戦略が固まっても、
そこから先は長い道のりが待っている

 施設建設には納期、予算、品質が必ず決められています。通常では考えられないほどの短納期で施設を完成しなければならないケースもあります。また予算を組む場合に、企業のファイナンス事情を勘案した支払いサイトの設定なども行います。こうしたさまざまな条件を私どもは「発注図書」に落とし込むのです。発注図書とは言葉どおり、設計・施工者を選ぶために必要とされる書類で、他の建設業界のプレイヤーと比べて山下PMCは時間をかけてつくり込みます。その過程で不安定要素をできるだけ減らし、起こりうるリスクから企業を確実に守るのです。

設計者と施工者が異なれば、
リスクはゼロとはならないのか?

 しかし、外部の設計者がデザインし、施工者が材料や備品を選定するわけですから、リスクはゼロにならないのでは、と思われるかもしれません。確かにゼロとは言いませんが、私どもは「性能発注」という考え方で、このリスクを低減させています。「性能発注」というのは、施設に求める要件やサービス水準の詳細を規定した上で、発注することです。建物の形状や具体的な機器、材料までは決めずに、建物や設備がどのような能力を発揮すべきかという「性能」の条件を設定するため、コストや工期が計画から大きく外れるリスクを低減できます。

 逆に言えば、設計・施工者は与えられた条件の中で、プロとしてどう腕前を発揮するかが見せ所ともいえます。先ほどの例で、実は、本社ビルとともに別の事業所の施設も同時並行で造りました。その際の施工会社は別のゼネコンでしたが、発注の仕方が確実だったため、2つの施設は同じコンセプトを遵守したものになりました。

成長する企業が「施設参謀」を活用するわけ(1)はこちら