最新の「高血圧治療ガイドライン」では、日本人の降圧目標値は「140/90mmHg未満」。その前の「130/80mmHg未満」から緩和された。この「緩和傾向」は、ここ数年の世界的トレンドだったのだが。

 先日、米国立心臓肺血液研究所から、大規模臨床試験「Systolic Blood Pressure Intervention Trial(SPRINT)」の解析結果が報告された。試験名を日本語訳すると「収縮期血圧(上の血圧)介入試験」といったところ。

 試験は50歳以上で上の血圧が130mmHg以上、心血管疾患の既往、慢性腎臓病があるなどのハイリスク例、もしくは75歳以上の高血圧患者を対象に行われた。

 降圧目標を上の血圧に絞り、「120mmHg未満」の厳格な降圧治療群と、「140mmHg未満」の緩い降圧治療群に分け、その影響を追跡している。「120mmHg未満」群は、平均3種類の降圧剤を処方されている。

 対象者は9250人で、心血管病の既往が1877人、慢性腎臓病合併が2648人、75歳以上が2636人だった。

 本来、同試験は2018年末まで続くはずだったが、この秋で打ち切られた。命に関わる優劣が明らかになったからだ。

「120mmHg未満」群は、「140mmHg未満」群と比べ、心筋梗塞や脳卒中の発症頻度とその関連死が約30%低下。全死亡率も約25%少なかった。血圧低下によるめまいなどは増えたが、文句なく「120mmHg未満」群に軍配が上がったわけだ。

 ガイドラインではSPRINTの対象に近い「糖尿病や蛋白尿を伴う慢性腎臓病」の降圧目標値は130/80mmHg未満。日本高血圧学会は医療現場の混乱を防ぐためか、同試験の結果が報告された数日後、ホームページ上に「慎重な判断が求められる」とコメントを掲載。次のガイドライン改定で「厳格な降圧治療」への揺り戻しがあるかは、今のところ不明だ。

 ともあれ、我々一般市民は「高血圧は体に悪く、下手をすると死を招く」とキモに銘じよう。生活習慣の改善が先決で、数値に振り回されるのは、その後でいい。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)