トヨタの現役幹部による最新刊『現場からオフィスまで、全社で展開する トヨタの自工程完結』から、読みどころを抜粋してお届けしています。今回は、「自工程完結」がどのような効果を生むのか、イメージを持ってもらうために、最近のトヨタの事例を一つ紹介します。

絶対に間違えられない膨大な量の
「つらい仕事」はどう変わったか?

「自工程完結」でどのように仕事の質を高めるのか、イメージを膨らませていただくために、実際のトヨタの事例の紹介から始めましょう。

 品質保証部という部署の業務に、完成検査終了証の発行業務、と呼ばれているものがあります。自動車には車検制度があり、日本国内では車検を通った車だけが公道を走ることができます。これは新車も同様ですが、国が行う新車車検を、メーカーが検査を行い「完成検査終了証」を発行することで代行できる仕組みがあるのです。

 トヨタは、検査を合格した証しとして「完成検査終了証」を発行しています。この業務を担当しているのが、品質保証部でした。

 まずは「完成検査終了証」に必要となるデータを社内から集め、「完検証マスタ」と呼ばれるデータを作り、発行処理をして申請、登録という流れになりますが、この「完検証マスタ」の作成に大変な手間がかかっていました。

 また、「完成検査終了証」に間違いがあったりすると、国の登録ですから大きな問題になります。実際、「完検証マスタ」を作成するプロセスでミスが起き、データ修正をして国土交通省に報告をしましたが、三日間、車両が登録できず、お客さまにご迷惑をかけたという問題が発生したこともありました。

「完検証マスタ」の作成でやっかいなのは、三つの異なる部門から三つの仕様情報を入手し、一つのデータに落とし込んでいかなければいけないことでした。

 法規部の認証仕様、製品企画部の車両仕様、国内商品部の受注仕様です。一台の同じ車の仕様でも、三つの部門から見ると異なる捉え方がなされます。認証仕様は国土交通省に申請する法律上の違いを表す言葉が中心の仕様情報で、車両仕様は製造するうえでの部品の種類と組み合わせを表す仕様情報、受注仕様はお客さまが好みによって選択する色や材料のグレードなどが加わる仕様情報、と言えばわかりやすいかもしれません。

 それぞれの部門が、自分たちの使いやすいように必要な情報を仕様に落とし込んで、社内情報として流通させていたのです。そして、そうした異なる社内情報から、「完検証マスタ」に必要な情報をチョイスして置き換え、国に提出する書類を作り上げていくのが、品質保証部の業務の一つになっていました。

 しかも、その数が膨大でした。これを二人のチームと上司の三人で行い、年間で約九〇〇時間が必要になっていた業務でした。そうした中で、起きてはならないミスが起きてしまった。「完検証マスタ」の作成プロセスで情報を見落とし、三人によるチェックまでスルーしてしまったのです。