営業、説明会、発表会……。社外プレゼンはビジネスパーソン必須のスキル。ところが、多くの人が苦手ではないでしょうか?そこで、ソフトバンクで孫正義氏のプレゼン資料をつくった著者が、秘伝の「社外プレゼンの資料作成術」を全公開。本連載では、その「シンプル&ロジカル」かつ、相手の心を動かす、「超」実践的なノウハウをお伝えします!

「あれもこれも説明しよう」としない

 シンプルなプレゼン資料をつくる――。

 これが、プレゼンを成功させる鉄則です。「あれもこれも説明しよう」と情報を盛りだくさんにすると、どうしても複雑なプレゼンになってしまいます。その結果、聞き手は内容を消化することができず、「よくわからないプレゼン」になってしまうのです。

 では、どうすればよいか? 情報を取捨選択するしかありません。本編資料には重要な要素だけを盛り込んで、それ以外の補足的な要素はすべてアペンディックスにもっていくのです。もちろん、本編では最重要な情報しか伝えませんから、聞き手には疑問点が生まれます。しかし、それについては、プレゼン終了後の質疑応答でアペンディックスを示しながら説明すればいいのです。

 そのため、私は、社内プレゼンにおいては、プレゼンを3~5分で終わらせることを念頭において、「5~9枚」で本編資料を構成することをお薦めしています。「5~9枚」という制約を課すことで、盛り込む情報を精査せざるを得なくなるからです。資料のボリュームを絞ることで、自然とプレゼン資料はシンプルになるのです。

社外プレゼンはスライド1枚につき「平均約6秒」

 しかし、社外プレゼンの場合は、そうはいきません。
 社内プレゼンはロジックさえしっかりしていれば決裁者は納得してくれますから、「5~9枚」の本編資料でも構成可能ですが、社外プレゼンでは相手の感情に訴えかける必要があります。「5~9枚」の資料では、とてもそこまではできません。

 そもそも、一枚のスライドで相手の興味を惹きつけるのは20秒が限界。それ以上見せ続けると、どんな人でもプレゼンから気持ちが逸れていきます。私は営業プレゼンも3~5分で終わらせることを心がけていますが、それを「5~9枚」でやろうとすると、1枚につき20~60秒見せる計算になります。これは、社内プレゼンであれば許されますが、社外プレゼンでは完全にアウト。説明会プレゼンであれば、参加者のなかに寝る人が必ず現れます。

 社外プレゼンでは、1枚のスライドを見せる時間をできるだけ短くして、トントントンとリズム感をもってスライドを切り替えていくほうがよいのです。ただし、どんなにシンプルなスライドでも、1枚のスライドを把握するには最低でも2.5秒が必要とされています。ですから、私は、社外プレゼン資料を、スライド1枚につき「平均約6秒間見せる」という計算で組み立てるようにしています。

 そのため、3~5分の営業プレゼンでは、本編資料だけで30~50枚。説明会プレゼンでは、場合によっては100枚を超えるケースもあります。ここに、社外プレゼンの難しさがあります。なぜなら、社内プレゼンのように「5~9枚」という制約がないために、ややもすると焦点の絞れていない散漫なプレゼンになってしまうおそれがあるからです。つまり、より一層、盛り込むべき情報の取捨選択をしっかり行う意識をもつ必要があるということです。

「聞き手」の目線で情報を取捨選択する

 では、社外プレゼンにおいて、情報を取捨選択する「モノサシ」は何でしょうか?

 それは、1つしかありません。聞き手にとって重要かどうか。この一点だけです。商品・サービスには、さまざまな機能(特徴)があり、そのすべてを丁寧に伝えたいと考えがちですが、これが間違いのもととなります。「相手がどんな人か?」「相手は何に悩んでいるか?」「相手は何を求めているか?」を徹底的に考えることで、プレゼン資料に盛り込むべき情報かどうかを取捨選択していく必要があるのです。

 連載第4回以降で取り上げている「デジカタ」を例に考えてみましょう。
「デジカタ」には、「安価な維持費」「一括更新」「使いやすいインターフェイス」「鉄壁のセキュリティ」「ハイスピードな処理速度」「動画添付可能」など、さまざまな機能(特徴)があります。また、一流メーカーと提携して、最新スペックの高機能タブレットでサービスを提供しています。

 しかし、そのすべてを説明しようとすると、複雑でわかりづらいプレゼンになるでしょう。

 連載第5回で紹介した、紙のカタログを利用している会社に営業するという設定で作成したプレゼン資料では、「ハイスピードな処理速度」「動画添付可能」「タブレットの情報」などは掲載していません。

 なぜか?

 紙カタログの会社の課題に対応する要素以外は、聞き手にとって重要度が低いからです。

 社外プレゼンのロジックは、すべて「相手の課題」を起点にして組み立てていきます。紙カタログの会社では「印刷コスト」「機会損失」「更新作業の負担」が課題ですから、それに対応する「機能(特徴)」、そして、その機能によって実現する「メリット」「未来像」を示すことが最も重要。それ以外の要素は、すべてアペンディックスに入れておけばいいのです(下図参照)。プレゼン終了後の質疑応答で使う可能性もありますし、アペンディックスとしてストックしておけば、別の営業先のときには、そこから本編スライドに移し替えることもできるでしょう。

孫正義氏のプレゼン資料の元担当者が教える<br />相手にスーッと伝わるプレゼン資料をつくる方法

 こうして、聞き手にとって最も重要な要素だけを本編資料に入れることを徹底しなければ、シンプルな資料をつくることはできません。まず第1に、聞き手のことをよく理解する。そして、聞き手にとって「何が重要で、何が重要でないか」を見極める。これが、シンプルな資料をつくる鉄則です。

「根拠」を示すスライドはアペンディックスへ

 また、プレゼンで主張することの「根拠となるデータ」も、その多くはアペンディックスにもっていくようにしてください。

 というのは、社外プレゼンは「理屈っぽく」しないのがコツだからです。ここが、社内プレゼンとの大きな違い。社内プレゼンはロジック最優先ですから、何かを主張する際には、必ず、その「根拠」もスライドで明示する必要があります。しかし、それを社外プレゼンでやると、「理屈っぽく」なって感情に響きにくくなるのです。

 たとえば、「デジカタ」の営業プレゼンで「コスト1/10」になることを訴えていますが、これにはもちろん積算根拠があります。しかし、それを本編スライドに入れ込むと、プレゼンのリズムが悪くなります。むしろ、「デジカタ」のメリットをトントントンと連打したほうが、聞き手は興味を惹きつけられるでしょう。

 そこで、こうした「根拠を示すスライド」は、アペンディックスで保持しておきます(上図参照)。プレゼン終了後、お客様から「コストの根拠はあるの?」と尋ねられたら、そのアペンディックスを見せながら説明すればいいのです。
 

孫正義氏のプレゼン資料の元担当者が教える<br />相手にスーッと伝わるプレゼン資料をつくる方法前田鎌利(まえだ・かまり)1973年福井県生まれ。東京学芸大学卒業後、光通信に就職。「飛び込み営業」の経験を積む。2000年にジェイフォンに転職して以降、ボーダフォン、ソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)と17年にわたり移動体通信事業に従事。各種  営業プレゼンはもちろん、代理店向け営業方針説明会なども担当。2010年にソフトバンクグループの後継者育成機関であるソフトバンクアカデミア第1 期生に選考され、事業プレゼンで第1位を獲得。孫正義社長に直接プレゼンして幾多の事業提案を承認されたほか、孫社長のプレゼン資料づくりも多数担当した。その後、ソフトバンク子会社の社外取締役や、ソフトバンク社内認定講師(プレゼンテーション)として活躍。2013年12月にソフトバンクを退社、独立。ソフトバンク、ヤフー、株式会社ベネッセコーポレーション、大手鉄道会社などのプレゼンテーション講師を歴任するほか、全国でプレゼンテーション・スクールを展開している。著書に、『社内プレゼンの資料作成術』(ダイヤモンド社)。