営業、説明会、発表会……。社外プレゼンはビジネスパーソン必須のスキル。ところが、多くの人が苦手ではないでしょうか?そこで、ソフトバンクで孫正義氏のプレゼン資料をつくった著者が、秘伝の「社外プレゼンの資料作成術」を全公開。本連載では、その「シンプル&ロジカル」かつ、相手の心を動かす、「超」実践的なノウハウをお伝えします!

「相手」が変われば「課題」が変わる

 プレゼンはコミュニケーション。相手がいて初めて成立するものです。
 ですから、同じ商品・サービスの魅力を伝える場合でも、相手を徹底的に意識しながらプレゼン資料を制作することが極めて重要です。これができなければ、絶対に相手の心に響くプレゼンをすることは不可能。そのためには、資料作成に取り掛かる前に、相手に合わせて提供すべき情報を整理しておく必要があります。

 連載第4回以降で取り上げている「デジカタ」を例に考えてみましょう。
 連載第4回以降では、紙のカタログで営業を展開している会社を対象にしたプレゼン資料について説明してきましたが、「デジカタ」の営業先には、すでに紙のカタログから電子カタログに切り替えた会社もあるでしょう。その両社に対する営業プレゼンの内容は、当然異なってきます。

 まず、抱えている課題が違います。紙カタログの会社は「紙カタログのコスト」「ムダな更新作業」「機会損失」が課題ですが、電子カタログに切り替えた会社は「システムの使いづらさ」が課題であるケースが多いはずです。

 そのため、まず第1に、プレゼンのイントロ(つかみ)が違ってきます。紙カタログの会社に対しては、「紙カタログに要する5000万円のコストの重さ」を訴えるのが、最も効果的な「つかみ」となるでしょう。一方、すでに電子カタログに切り替えている会社に対しては、例えば下図のようなスライドで「操作が難しい」「一括更新ができない」ことによる「非効率」「面倒くささ」を訴えれば共感を得やすいはずです。

孫正義氏のプレゼン資料の元担当者がやっていた、<br />多くの聴衆の「心」を一気につかむ方法

相手が求めている「機能」「メリット」「未来図」をつかむ

 また、課題が違えば、それに応じて伝えるべき「機能(特徴)」「メリット」「未来像」も違ってきます。それを整理したのが下図です。

孫正義氏のプレゼン資料の元担当者がやっていた、<br />多くの聴衆の「心」を一気につかむ方法

 まず、すでにデジタルに切り替えた会社の中心的な課題が「システムの使いづらさ」であれば、相手にとって魅力的な機能は「一括更新できること」「使いやすいインターフェイスであること」がメインになるはずです。紙カタログの会社の場合には、第1に「低コストである」という特徴を打ち出しますが、この要素は補足的な位置づけになるでしょう。「メリット」と「未来像」も同様に、紙カタログの会社とは異なる要素を打ち出すことになります。

 このように、同じ商品・サービスであっても、相手によって訴えるポイントはまったく異なってきます。ですから、プレゼン資料をつくる前に「相手は誰か?」「相手の課題は何か?」「相手は何に困っているか?」を徹底的に考えて、情報を整理しておく必要があるのです。

説明会では「最大公約数」にフォーカスする

 ただし、説明会プレゼンでは、これが難しい。
 なぜなら、説明会プレゼンは「1対多」のコミュニケーションだからです。営業プレゼンの場合は、特定の相手のことを徹底的に考えればOKですが、説明会プレゼンの場合は、さまざまな特性をもった参加者が対象ですから、必ずしもそうはいきません。

 たとえば、IT業界が合同で開催するユーザー向けのフェアで「デジカタ」をプレゼンする場面を想像してください。会場には、紙カタログの会社もいれば、電子カタログに移行した会社もいるでしょう。電子カタログに移行した会社のなかにも、「更新作業が難しい」ことに不満がある会社もあれば、「さらなるコストダウン」を求めている会社もあるでしょう。参加者の課題は一様ではないのです。

 そこで、できるだけ多くの参加者が関心をもつテーマを探す必要が出てきます。参加者の「最大公約数」を探すのです。私ならば、たとえば「時間」に着目します。「業務を効率化して残業時間を減らしたい」という、すべてのビジネスパーソン・会社に共通する課題にフォーカスするわけです。

 イントロには、下図のようなスライドを用意します。

孫正義氏のプレゼン資料の元担当者がやっていた、<br />多くの聴衆の「心」を一気につかむ方法

 まず最初に「24」という数字を見せながら、「人は等しく24時間が1日として与えられています」と切り出します。

 続いて「47」という数字を見せながら、「これは、何の数字だと思いますか?」と質問。少し間を置いて、次のスライドで公的機関が公表している日本人の平均残業時間であることを提示。「これを少しでも減らしたいと誰もが願っていますが、なかなか難しいのが現状ではないでしょうか?」と投げかけます。

 そして、「月2時間残業を減らす方法」というスライドを示して、「もしも、簡単に2時間の残業を減らす方法があれば知りたいですよね?」などと問いかけたうえで、「そこで、紹介するのがデジカタです」と持っていくわけです。

 もちろん、ボディ・スライドも、時間という課題設定に対応した構成を考えます。このように、多様な特性をもつ参加者の「最大公約数」を見つけ出し、それをテーマに据えてスライドを構成する。それが、効果的な説明会プレゼン資料をつくる鉄則なのです。

孫正義氏のプレゼン資料の元担当者がやっていた、<br />多くの聴衆の「心」を一気につかむ方法前田鎌利(まえだ・かまり)1973年福井県生まれ。東京学芸大学卒業後、光通信に就職。「飛び込み営業」の経験を積む。2000年にジェイフォンに転職して以降、ボーダフォン、ソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)と17年にわたり移動体通信事業に従事。各種  営業プレゼンはもちろん、代理店向け営業方針説明会なども担当。2010年にソフトバンクグループの後継者育成機関であるソフトバンクアカデミア第1 期生に選考され、事業プレゼンで第1位を獲得。孫正義社長に直接プレゼンして幾多の事業提案を承認されたほか、孫社長のプレゼン資料づくりも多数担当した。その後、ソフトバンク子会社の社外取締役や、ソフトバンク社内認定講師(プレゼンテーション)として活躍。2013年12月にソフトバンクを退社、独立。ソフトバンク、ヤフー、株式会社ベネッセコーポレーション、大手鉄道会社などのプレゼンテーション講師を歴任するほか、全国でプレゼンテーション・スクールを展開している。著書に、『社内プレゼンの資料作成術』(ダイヤモンド社)。