経営者の「好みに合う人材」ばかり採るのはリスク

 中小企業の人材採用の話を続けましょう。

 前回は学生の採用は「思考力」と「実行力」を見ることが重要という話をしました。それらが人材の「基礎力」だからです。

「大企業出身」の看板に弱い経営者は勘違い人材を採用してしまう小宮一慶
小宮コンサルタンツ代表

 一方、中小企業の場合、最終面接は採用権を持つ社長が担当することが多いのですが、その場合に注意すべきは「自分の好みに合う人材ばかりを採らない」ということです。

 中小企業の社長、とくに創業経営者は、自分の実力で会社を成長させてきた分、自分の価値観が絶対であると思い込みがちです。そこでウマが合う、ノリが同じという単純な判断基準で学生を採用してしまうと、社員が常に社長と同じ方向を向く(異なる意見が出にくい)多様性に欠く会社になってしまいます。

 業績が良い時はそれでも何とかなるのですが、社長が判断を間違ったり、業績が悪くなると、目も当てられない状況になることも少なくありません。実際、私はそういう会社を間近で見たことがあります。

 採用の現場で実際にあった話です。業績のそこそこ良かったX社が2年続けて6人の新入社員を採用しました。採用後に性格検査のひとつであるエニアグラムを行ったところ、2年続けて6人とも社長と同じタイプでした。エニアグラムでは性格を9タイプに分けて分類するので、社長と同じタイプになる確率はひとりずつでも9分の1のはずです。

 それなのに2年続けて全員が同じ結果となり、X会社には社長と同じタイプの人が12人も入社することになりました。もともといた人も含めて三十数人の会社ですから、とても大きな勢力で、また、過去からいた人も同タイプの人が多いという状況でした。

 経営が波に乗っていて社長の判断が的中している間は、みんなが同じ方向を向いて仕事をするので順調に発展していたのですが、社長の判断が狂うようになると、業績があっという間に悪化してしまい、ついには倒産してしまいました。