「ゆとり若手」が隠し持つ「新しいハングリー精神」に火をつける

時に失敗がメンバーを育てることもある。リーダーはメンバーの失敗をどこまで許容すればいいのか? また若いメンバーが仕事に求めることは何か? 1000人以上の経営者へのインタビューを15年近く続けてきた藤沢久美氏の最新刊『最高のリーダーは何もしない』から、その具体例をみていこう。

「目に見えないリターン」も
見通せているか?

キングジムには、「役員1人が賛成すれば商品化していい」というルールがあります。

しかし、このルールの下で商品を開発しても、つくったものがすべて当たるわけではありません。

代表取締役社長・宮本彰さんは「10個のうち9個ぐらいは失敗商品になる。当たった1個で、9個の失敗の損を取り戻して、お釣りが出るくらいでいい」という考え方を持っています。だからこそ宮本さんは、マーケティング調査というものについて懐疑的です。

「新商品は出してみないとわからない。私はマーケティング調査がいちばん嫌いです。マーケティング調査はお金と時間がかかるし、すごく無駄が多いんです。そんなことをやるより、まず商品を出してしまって3ヵ月もすれば、売れる売れないというのはわかりますよ」

宮本さんがこの「とりあえず出す」という発想を大切にしているのは、何が売れるかわからないからだけではありません。失敗によって、社員たちの学びの機会も得られるからです。

売れなかった商品については、「なぜ売れなかったのか」を話し合い、お客様の意見をみんなで分析しながら、「こうすれば売れたかもしれない」と仮説を立て直したりしているそうです。

「売れなかったらやめてしまえばいいわけです。当然やめれば損が出ますが、そこから『なぜ売れなかったか』ということを学べます。そういう経験を積み重ねていくと、ヒット商品につながっていくはずなのです。マーケティング調査をして、出す商品を絞ってしまうと、何も勉強になりません。

商品が売れなかったとしても、市場からなくなってしまえばお客様の記憶には残りませんから、恥ずかしくも何ともありません。失敗は社内での勉強材料として使う。これがいちばんいいパターンだと私は思います」

売れた商品からは経済的リターンを得て、売れなかった商品からは、次なる開発への知恵というリターンを得る。キングジムでは「社員の努力や発想を無駄にしない」という精神が徹底されているのです。