つかみどころのない「ファイナンス」という学問の本質が知りたければ、その「双子の兄」とも言うべき「会計」と対比すればいい。ファイナンスと会計は、ともに「企業のお金」という同じ対象を扱いながらも、その根底にある考え方は正反対である。ファイナンスによれば、「会計はいつも決定的に重要な価値を見落とす」のだという。その真意とは?

年間500件以上の企業価値評価を手がけるファイナンスのプロ・野口真人氏の新著『あれか、これか――「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』のなかから紹介していこう。

「隠された価値」を決算書はいつも見逃す

会計とファイナンス
――まったく似ていない「双子の兄」

前回までの連載では、「モノの価値」の見極め方として「価値は原価で決まる」という考え方(コスト・アプローチ)と「価値は市場の総意で決まる」という考え方(マーケット・アプローチ)の2つを検証し、それぞれの視点の欠陥を指摘してきた。

これらは、あくまでも「目に見えるもの」、端的に言えば価格に注目している。「価格が価値を決める」という発想であり、いわば価格中心の世界観である。

他方でファイナンスは、ブランドのような「目に見えないもの」を価値の源泉だと考える。「価値が価格を決める」という価値中心の世界観で宇宙をとらえようとするのだ。

お金というのは単なる尺度であり、それ自体が価値を決めるものではない。その意味では、ファイナンスのほうが現実に即していると言えないだろうか?

この違いをよりはっきり理解したいのであれば、ファイナンスの「双子の兄」とも言うべき会計(アカウンティング)と対比してみればいい。