本当にためになる育て方に
今最も必要なものとは?

 竹中平蔵教授が「『親の教科書』といえる稀有な良書」と評し、『「学力」の経済学』著者、中室牧子氏が「どうやって子どもをやる気にさせるのか、その明快な答えがここにある」と絶賛。また、高濱正伸氏(花まる学習会代表)が「リーダーシップ育成の教科書として、目下最良の一冊」と称する『一流の育て方 ビジネスでも勉強でもズバ抜けて活躍できる子を育てる』

 ベストセラー『世界中のエリートの働き方を1冊にまとめてみた』著者“グローバルエリート”ムーギー・キム氏と、子育て連載でバズ記事連発のミセス・パンプキン氏が、200人を超えるエリート家庭の「最も感謝している教育方針」を調査し、本質的なリーダーシップ育成法を一冊にまとめている。

 発売わずか2ヵ月で13万部を突破し、子育てのみならず、ビジネスやあらゆる分野のリーダーシップを伸ばすビジネス書として、異例のベストセラーとなっている中、本書の内容に基づき、各界のリーダーと「リーダーシップの育て方」を論じる対談編をお送りしている。

 今回は、予防医学研究者で医学博士の石川善樹氏をゲストに、「一流の教育」や専門の「グリット(やり抜く力)」について詳しくうかがう対談の後編。長期間にわたり努力を続け、成功する人の条件とは? いま、なぜグリットが注目されているのか? グリットの「ある人」「ない人」は何が違うのか?

IQが高くても成功しない。
成功を左右する「グリット」とは何か?

子どもの将来の成功を決める<br />最重要ファクター「グリット」とは何か?

石川 ぼくがやっている研究の一つに、「勝ち続ける心理学」というものがあります。学校や職場・スポーツなどの場面において、活躍し続ける人とあきらめたり失敗しやすい人とのあいだには、どういう違いがあるんだろうかということを探っています。

 たとえば日本で勝ち続けている人というと、将棋の羽生さん、プロ格闘ゲーマーの梅原さん、あるいは長いこと第一線で活躍された元陸上選手の為末さんなどがいます。これまでの研究でわかってきているのは、そのような人の特徴として、グリット(やり抜く力)やEQ(心の知能指数)のような、IQの高さでは計れない「非認知能力」が重要だということです。

ムーギー なるほど、IQのような認知能力ではないのですね。ちなみにその非認知能力を高めるには何が大切になりますか?

子どもの将来の成功を決める<br />最重要ファクター「グリット」とは何か?石川善樹(いしかわ・よしき)
予防医学研究者、(株)Campus for H共同創業者
1981年、広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。 「人がより良く生きるとは何か」をテーマとした学際的研究に従事。 専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学、マーケティング、データ解析等。 講演や、雑誌、テレビへの出演も多数。NHK「NEWS WEB」第3期ネットナビゲーター。 著書に『疲れない脳をつくる生活習慣』(プレジデント社)、『最後のダイエット』『友だちの数で寿命はきまる』(ともにマガジンハウス社)、『健康学習のすすめ』(日本ヘルスサイエンスセンター)がある。

石川 非認知能力を高めるには、「セルフ・アウェアネス」が重要だと考えられます。自分が気づいていることに気づいているか、ということですが、自分の感情、思考、行動を自分できちんと振り返って自らにフィードバックしていると、非認知能力が高まるんです。

ムーギー 自分で自分を振り返っている人は、自分にとって「本当に大切なものは何か」「何が好きなのか」「何が強みなのか」などがわかるから、やるべきことを選んで高めていくことができる。こういう理解でいいですか?

石川 そうです、そうです。ぼくがグリットの研究をするようになったのは、ダイエットの研究から派生してなんですが、ダイエットって、ほぼ全員が失敗するんですよね。

ムーギー それは私も体験的に、かなりの自信を持って言えます。

石川 なるほど(笑)。体重を落とすことはできるんですが、維持ができないんですよね。それでリバウンドする。失敗ですよね。では、どうしたら維持ができるんだろう、先人や先行研究は、どうすれば頑張りが続くと言っているだろうと思い、まずは最初に「根性が大事だ」みたいなことを言ったのは誰だろう、というのを調べていきました。そうすると、19世紀イギリスの医者・作家、サミュエル・スマイルズに行き当たりました。彼が『自助論』の中で、「成功するためには不屈の努力が大事である」と言っているんです。

 いまでは当たり前に聞こえますが、当時は、個人の努力が成功を左右するなんて考えはなくて、「村の規範」に従うことがすべてだったんですね。そこに産業革命が起こって「都市」ができてから、「個人の努力」という概念が出てきて、サミュエル・スマイルズがこういうことを言い出した。個人が頑張れば何とかなる時代になったわけです。

 この『自助論』は海を渡って日本にも入ってきています。明治時代の日本では、福沢諭吉の『学問のすすめ』と並ぶ二大ベストセラーになりました。『西国立志編』というタイトルで出て、なんと100万部以上売れているんですよ。

ムーギー なんと! 「個人の努力」がそんなに珍しい概念だったんですか。

石川 でも20世紀になると、努力できない人が増え始めました。商品やサービスが増えすぎてしまって、一つのことに集中できなくなってきたんですね。これに最初に気づいたのは、フロイトの精神療法に携わっている人たちでした。昔なら、「こう決めて、これをやりなさい」と言ったらみんなやってくれた。でも、最近やってくれないよねってなって。

 ここに来て、成功に向けて努力を続けるための研究をしたのがナポレオン・ヒルです。頑張らないと成功できないわけですが、みんな、その「頑張り続ける」ことができない。そこで彼は、「頑張り続けて成功した人にはどんな特徴があったのか」を研究しました。

ムーギー 有名な『思考は現実化する』ですね。

石川 そうです。あの本で言っているのは、まず、頑張るためには夢を持つことが必要であると。願望の大きさが意志力に比例すると言っています。成功に至る4つのステップを簡単に言えば、「とんでもなく大きな願望を持て」「そこに至るための綿密なプランを立てよ」「サポートしてくれる仲間を得よ」「ひたすら実行せよ」ということです。

ムーギー 極めて当たり前な気もしますが、まっとうなステップですね。

石川 でも、この4つのステップのうち、2番目以降は忘れられて、最初の「とんでもなく大きな願望を持て」という部分だけ広まってしまったんです。そこから、「夢を持つことは素晴らしい」という概念ができたんです。20世紀のことです。その後、科学的な検証は誰もやっていません。はじめて検証しようとしたのが、グリットという概念を提示した心理学者のアンジェラ・リー・ダックワースさんたちです。

 じつはダックワースさん自身、短期間頑張ることはできるけれども、一つのことを頑張り続けることができなかったようで、仕事をころころ変えているんですね。それで、「長い期間頑張れる人」と「そうでない人」は何が違うのかを研究しました。

ムーギー 私も、長期的には頑張りませんが、「短期間なら頑張れる」というタイプです。何が違うんでしょう?

石川 短期間頑張るには、自分の衝動をコントロールすればいいんですね。「お腹がすいた」とか、「つらいから逃げ出したい」というときも自制する。こうした短期的なセルフコントロールができる人は、社会的にも成功しやすいです。

 ただ、ダックワースさんが立てた問いは、「長期間頑張り続けるにはどうしたらいいのか?」です。一般には「夢を持つ」ことが大事だと言われていたんですが、20世紀の学術界では、「IQの高さ」がポイントだろうと言われていました。IQが高い人こそが成功するだろうと思われていたんです。それを証明するため、スタンフォード大学のターマン教授がIQの高い子どもたちを何十年もかけて調査しています。

ムーギー 何十年もですか。ターマン先生は相当、グリットがありそうですね(笑)。

石川 だと思います(笑)。結局、この調査でわかったのは、「IQの高さと社会的成功は関係がない」ということでした。

 IQじゃないなら何なんだということで、次に考えたのはセルフエスティーム(自尊心)です。だから今度は、「子どもを褒めて育てよう」という話になった。でもその後、研究が進むと、「やっぱり成功のカギは自尊心じゃない!」という結論になりました。因果関係が逆だったんです。自尊心があったから成功したわけではなく、成功したから自尊心が身についていたわけです。

「自尊心じゃないなら、何だ?」というところへ現れたのが、さっき触れたアンジェラ・ダックワースさんです。長期間頑張って成功した人たちに共通しているのは、グリット、つまり「やり抜く力」だというんですね。

 グリットは二つの要素に分かれます。端的に言うと「セルフコントロール」と「興味の一貫性」です。