「中間管理職」こそがリーダーシップの醍醐味【田坂広志×藤沢久美 特別対談】

藤沢久美氏の『最高のリーダーは何もしない』が、発売2ヵ月で5万部を突破する売れ行きを見せ、悩めるリーダーのための新定番書となりつつある。

先日開催された出版記念セミナーでは、特別ゲストとして田坂広志氏(多摩大学大学院教授)が駆けつけ、セミナーは大盛況のうちに幕を閉じた。前回に引き続き、田坂広志氏との対談の模様をお伝えする。

シンクタンク・ソフィアバンクで共に代表を務める田坂氏は、『最高のリーダーは何もしない』をどう読んだのか?また、藤沢氏が感嘆した田坂氏のフォロワーシップとは?イベントレポートの最終回!!
(構成/高橋晴美)

「仲間」として叱る。自分本位の叱り方をしない

「中間管理職」こそがリーダーシップの醍醐味【田坂広志×藤沢久美 特別対談】田坂広志(たさか・ひろし)多摩大学大学院教授。
田坂塾・塾長。
1951年生まれ。74年東京大学卒業。81年同大学院修了。工学博士(原子力工学)。民間企業を経て、87年米国シンクタンク・バテル記念研究所客員研究員。90年日本総合研究所の設立に参画、取締役等を歴任。2000年多摩大学大学院教授に就任、社会起業家論を開講。同年シンクタンク・ソフィアバンクを設立、代表に就任。08年世界経済フォーラム(ダボス会議)のGlobal Agenda Councilメンバーに就任。10年世界賢人会議ブダペスト・クラブの日本代表に就任。11年東日本大震災に伴い内閣官房参与に就任。13年「21世紀の変革リーダーの7つの知性」を学ぶ場、「田坂塾」を開塾。
著書に、最新刊『人間を磨く―人間関係が好転する「こころの技法」』(光文社新書)のほか、『仕事の技法』(講談社現代新書)、『知性を磨く』(光文社新書)など、80冊余。

【藤沢久美(以下、藤沢)】この時代、ますます「仲間」が大事になってくると思うのですけれども、田坂さんは、働く仲間に対して「我慢ならん!」ということはなかったですか?

【田坂広志(以下、田坂)】それは、日常茶飯でありましたよ(笑)。私はそれほど人格者ではないので、当然、あります。「なぜ、わからんのか!」とか思うことは多々ありました。

ただ、いま振り返っても、部下には相当厳しい上司だったとは思いますが、「お前がこうだから、俺が苦労するんじゃないか!」という、自分中心の叱り方をしたことは一度もないですね。

【藤沢】どう叱るか、ということですね。

【田坂】私は、部下や社員に対して「仲間」という思いがあるので、叱るときは相当厳しいですが、「君は、そんなやり方をしたら、素晴らしいプロになれないぞ!」「そんなやり方は、お客さんに対して失礼だ!」「お互いに最高のプロになろう!」という叱り方をしました。叱っていながらも、心の中で彼もしくは彼女が素晴らしい人生を歩むことを祈っていた部分はあった。だから、あの部下や社員の方々も、この厳しい上司と一緒に歩んでくれたのでしょう。

部下や社員を預かるリーダーにとって大切なことは、メンバーが素晴らしい人生を歩むことを、心の中で願っていることだと思うのです。祈っていると言ってもよい。

部下や社員の方々は、決して、こちらが立派な人間だから、聖人君子だから、欠点がないから、ついてきてくれるわけではありません。むしろ、お互い、どこまでいっても未熟な人間同士です。

ただ、「このリーダーは、自分との出会いを大切にしてくれている。だからこそ厳しいことを言うときもある。しかし、やはり、一緒に素晴らしい景色を見ようと思ってくれている…」。そんなふうに思ってもらえるかどうかですね。

【藤沢】リーダーが自分本位で叱れば、それも部下に伝わってしまいますよね。

【田坂】そうですね。そして、こうしたマネジメントにおいては、部下や社員に厳しく接して、辛くなるのはリーダーのほうです。寝る前に「今日は、田中君に言い過ぎたかな」と思ってしまう。「田中君、これで挫けないでくれ」と、どこかで祈っている。そして、一晩寝て、朝起きると「でも、田中君も頑張っているよな」という気持ちになっている。だから、会社に行くと、「田中君、おはよう!」と、こちらから声をかける。それは、とても大切なことです。

これは、単なる「対人テクニック」として申し上げているのではありません。「心の動き」として、温かい思いで「田中君、おはよう!」と言う。その「おはよう」の言葉で、すべてが伝わります。

こちらが「田中君、昨日厳しいことを言ったけど、でも、せっかくめぐり会った仲間じゃないか」という思いがあると、その思いは、自然に雰囲気に出ます。

逆に、心が伴わず、テクニックだけで同じことを言うと、それもすぐ伝わります。冷めた心で、どれほど温かそうな言葉を使っても、それも、怖いほど、相手にわかってしまうのですね。