記事に添えるデータから
データが主役の記事へ

「データジャーナリズム」という言葉は、もうかなり広まっているだろう。報道をする際に、ただ記事をストーリーとして伝えるだけでなく、それを裏付けるデータを見せるというものだ。

 最近は、記事にデータを証拠のように添えるというよりは、データ自体がニュースになり内容になるということが起こっている。データに現実を語らせることができるようになっているのだ。

 それが可能になるのも、インターネットやデジタル技術によって異なるカテゴリーのデータを組み合わせたり、変数を操作したりすることができるようになったからだ。それによって、その事実の知られざる側面が露になる。

 その意味では、データジャーナリズムの世界は深く、広くなっている。ニュースのオンライン化によって、データをどう視覚化(ビジュアライズ)するか、どんなインタラクティブ性にするのかなど、データを見せる方法も多様化している。

人種や学歴で
投票行動はどう違うか

 そのデータジャーナリズムを毎年厳選しているのが、「データジャーナリズム賞」である。世界の報道機関やその編集者、記者たちが関わるグローバル・エディターズ・ネットワーク(GEN)というNPO組織が授与しているものだ。

 今年も受賞者が選ばれたので、その中から「データジャーナリズムはここまでできる」という例を挙げたい。

 アメリカのオンラインメディア「ファイブ・サーティ・エイト」(538)は、統計を元にした報道で知られる。同メディアが今年の大統領選に合わせて、作ったのが「各州の共和党と民主党支持が、人種によってどう入れ替わるか」というインタラクティブな記事だ。

政府の偵察機までビジュアル化<br />データジャーナリズムはここまで進化したアメリカのメディア「538」では、民主党、共和党の支持傾向をさまざまな条件で調べた

 アメリカの大統領選では、各候補者がヒスパニック系に人気があるとか、高学歴の白人に支持されているといった人種や教育レベル、収入レベル、性別による違いが取りざたされる。単一民族国家の日本人から見ると、本当にそこまで人種によって支持が異なるのかと不可解になるが、この記事はそれをもっと細かいレベルまで理解できるようにしたものだ。

 上部には、各州どちらの党への支持が優勢なのかを示す地図が載っているが、その下にいろいろな変数でその支持が転換するのを見ることができる。

 たとえば、大学レベルの教育を受けた白人の投票率が何パーセントになると、どの州で支持党が入れ替わってしまうのかなどがわかるのだ。これが、高校以下の教育レベルの白人、アフリカ系、ヒスパニック系、アジア系などの変数と共に見ることができる。大統領選の気が遠くなるようなメカニズムを見る思いだ。