個人が住宅を建てる際、地球環境を意識し、少子高齢化社会を前提として、「省エネ性能」「バリアフリー」「ロングライフ」を追求することが当たり前になってきた。その背景には、日本の住宅政策が「フロー型」から「ストック型」へと、大きく舵を切ったことが大きい。さらに循環型社会への移行に向け、意識も「所有」から「利用」へと段階的に進みつつあると見るのは、明治大学理工学部の北野大教授。自身の「住宅遍歴」を踏まえ、最新の住宅トレンドを考察した。

“わが家変遷”に
今あらためて思うこと

 北野教授はこれまで、新婚時代の借家に始まり、多くの住まいを経験してきた。

明治大学理工学部 教授
北野 大(きたの・まさる)
1942年、東京都生まれ。明治大学工学部卒業。東京都立大学大学院工学研究科工業化学専攻博士課程修了。工学博士。専門は環境化学。2008年より現職。また、87年よりテレビ番組等に出演し、広く親しまれている。タレント・ビートたけし氏(映画監督・北野武氏)の実兄。著書に、『いまだに、たけしの兄です』(主婦と生活社)、『ドクター北野の地球なんでも好奇心』(NHK出版)、『北野家の訓え』(PHP研究所)、『できる子どもは環境で決まる』(ダイヤモンド社)、『北野大vsビートたけしの新環境文化論 もったいないねこのバチ当たりめ!』(あ・うん)などがある。

「最初に家を持ったのは牛久の建売住宅。そこに十数年住んだ後、お袋と同居することになって、生家があった下町の地所に二世帯住宅を建てました。その母も亡くなり、手狭だったので売却して、新たに土地を求めて建てたのが今の家です」

 3軒目にして初めて自分の部屋を持てたという。子育て中は子ども部屋が最優先、二世帯同居では母の部屋と台所(必ず世帯別に二ついる、が持論)が優先だったりと、家に対する要望はその時々で変わってきた。

「これから日本の住宅がフロー重視からストック志向に変わっていけば、ますます僕のようなヤドカリ型が増えると思っています。つまり、ライフスタイルに合わせて家を変えていくのが普通になってくる。従来はせっかく家を建てても20~30年で二束三文。そんな家に縛られるような生き方はおかしいと、皆が気づき始めたのです」

 母の希望を最大限に取り入れ、地元の大工棟梁に頼んで建てた二世帯住宅は、「こんな家が欲しかった」という人の手に渡り、今も別の二世帯同居を支えている。現在の住宅はとにかく長寿命であることが大事だと、「60年保証」をうたうハウスメーカーに依頼して建てた。

「ヨーロッパでは築100年、200年という古家が当たり前にあり、家具付きの賃貸住宅として活躍しています。それを使い、住み手も家族の成長に合わせて、どんどん移り住んでいく。マイホームをよしとする従来の日本文化からすると、一足飛びにそうしたストック型社会に移行するのは難しいが、これからの時代、持続可能な社会を形成していくには、なにがなんでも“所有”ではなく“利用”を前提に考えることも必要です」