平日は都会で働き、週末は田舎で過ごす「二地域居住」という暮らし方。東京生まれ、会社勤め、共働き、こども3人……「田舎素人」の一家にとっては命の匂いを感じられる自然も、実際に暮らすと、マッシブに生え茂る雑草との闘いが悩みのタネとなる。都会と田舎の往復生活を描いた奮闘記『週末は田舎暮らし』から、一部を抜粋して紹介する。

◆これまでのあらすじ◆
東京生まれ、会社勤め、共働き、こども3人。一家はついに東京と房総を行き来する「二地域居住」をスタート。「週末は田舎暮らし」という変わったライフスタイルも、無事、田舎の人たちに受け入れられた。一方、寒い冬が終わり、新緑の季節がやってくると、一家に新たな難問が降り掛かる……。

房総、草ぼうぼう

 東京で生活する中で、「雑草が伸びちゃって」ということを実感するとしたら、庭に出しておいた鉢にカタバミがはびこったりだとか、道路沿いの草がちょっと伸びちゃったりとか、その程度ではないでしょうか。

 それまで、草の伸びる速度に注目して生きてきたことのなかったわたしは、「雑草が伸びる」速度と迫力についてあまりに無知でした。寒い寒い冬が終わって新緑の季節が来るまでは、よかったのです。

 雑草の枯れ果てた茶色い地面がたちまち緑に覆われる様の美しさに、本当に心から、そして無邪気に感動していました。なんという濃い命の匂い!日々濃くなる草に体をうずめてウットリと深呼吸。

 虫カゴを持って飛びまわるニイニと、その後ろにくっついて転げまわるポチンにわたしも続き、まだ名を知らない野の花を摘んだり、お弁当をつくって段々畑の真ん中に座り「じぶんの家でピクニックができるなんて!」とのんきに楽しんだり。

 それはそれで、今も色褪せることなく毎年繰り返している感動なのですが、「きたぞー、きたぞー、いよいよ草刈りの季節がきたぞー」と指をポキポキならしながら覚悟を決める時期だとはつゆ知らず、ただただ自然の豊かさを鑑賞していました。知らないというのは、幸せなことでもあります。

 さて、それが、どうもちょっとすごいことになってきたぞ、こんなのんきではいけないのではないかと思いはじめたのは、日差しの強まるゴールデンウィークのころでした。

 週末、この家に到着すると、草がどっと伸びている風景に衝撃を受けたのです。敷地全体が、草でモッサリ。人の住む敷地に見えません。

 そしてすぐ、モッサリを通り越してあたり一面の草がどっとマッシブに増幅していきました。そのまま人間生活の場を奪いかねない勢いです。わたしは「どうしよう、草が怖い」と思いました。ヒッチコックの映画『鳥』を思い出すほど。シャレにならない伸び方なのです。

 草だけではありません。裏山に竹林があり、そこかしこに笹藪があるのは知っていましたが、「そこはあんたの出る場所じゃないはず」という唐突な場所に、竹や笹がニョキッと生えてくるのです。

 はじめは数本生え、あららとか言いながら手で折っていたのですが、季節が進むにしたがって、そこかしこからニョキニョキニョキニョキニョキと生え出して、あたり一面針山のよう。

 ポチンがその風景に驚いて「ここ、ぜんぶ、チクチクになっちゃった!」とわたしにしがみつき、「大丈夫よ、竹も笹もまだ柔らかいから、こうやってポキポキ折れるから」と教えながらも、油断すると大変なことになるぞと、わたしも同じレベルでドキドキしました。

「草が」「伸びて」「大変」
「竹も」「伸びて」「大変」
「土地を」「管理する」「必要」