新築マンションの価格高騰で「手抜き」が横行!?
間取りや壁、配水管の素材のチェック方法とは?

2017年11月8日公開(2021年3月1日更新)
ダイヤモンド不動産研究所
監修者 碓井民朗:碓井建築オフィス代表 一級建築士、建築家

首都圏新築マンション価格の高騰により、構造や設備など商品企画のグレードを下げた新築マンションが目立つようになっている。ここでは、「階高をこっそり削る」「面積を圧縮した3LDK」など、"手抜き"とも言える不動産会社によるコストダウンの手法を暴露しよう。

首都圏新築マンションの平均価格は、6083万円

 新築マンションの価格上昇が止まらない。不動産経済研究所のデータによると、2020年の首都圏の新築マンションは、平均価格が6083万円となり、バブル経済で沸いた1990年の6123万円に迫る価格となった。背景には、建築費の高騰に加え、新築マンションの新規発売戸数が減少していることも影響していると思われる。

価格高騰の影響で広がる、商品企画のレベルダウン

 「このまま価格上昇が続けば購入者がついてこれなくなり、在庫が急増するのではないか、デベロッパー各社も不安を感じています。そのため、近年販売価格を抑えるため、それとは分からないような部分で商品企画をレベルダウンするケースが目立つようになってきました」

 こう警鐘を鳴らすのは、長年分譲マンションの設計に携わり、現在はデベロッパー向けの設計監修、購入者向けの購入相談などを手掛けている一級建築士の碓井民朗氏だ。碓井氏によれば、新築マンション市場は過去にもブームと停滞を繰り返してきた。そして、停滞期になると同じようなレベルダウンの手法が横行してきたという。

 分譲マンションを巡っては過去に、横浜市で業界を代表する大手デベロッパー2社が販売した物件で、いずれも杭工事の不具合から建物を取り壊し、建て替える事態が発生。「欠陥マンション」への関心が高まったことがある。しかし、建て替えにまで至るケースは実際にはまれで、むしろ注意しなければならないのは商品企画のレベルダウン、すなわち“手抜きマンション”だ。建築基準法など最低限のハードルはクリアしているとしても、住み心地に難があり、大地震で大きな被害を受けやすく、将来のリフォームやメンテナンスもしにくい、そんなマンションのことである。

「面積圧縮型の3LDK」は、“手抜きマンション”の典型例

 “手抜きマンション”の典型が、面積圧縮型の3LDKだ。

 「昔から、マンションの価格が高騰し、売れ行きが鈍ると決まって登場するのが、70㎡を切るような3LDKです。マンションで3LDKの間取りを設計しようと思えば、最低70㎡の広さがほしいところです。ところが、60㎡台とか、ときには60㎡を切るような広さで3LDKにしてしまうのです」(碓井氏)

 面積を圧縮した間取りでは、ひとつひとつのスペースを切り詰めざるをえない。寝室や子供部屋として使われる洋室は5~6畳程度で、ベッドや机の置き場所に苦労する。

 そして、リビング・ダイニング(LD)は、「旗竿型」といわれるタイプになりやすい。「旗竿型」とは、LDの扉の位置を玄関のほうへ少しずらし、廊下の一部をLDに取り込んだものだ。こうすると、LDの部分が旗竿のように見えるのである。

 「3LDKでは通常、LDが占める広さは住戸面積の4分の1が目安なので、住戸面積が68㎡であれば17㎡(約10.5帖)にしかなりません。しかし、パンフレットや広告で、LDの広さ表示が10.5帖では購入者に対する印象が悪い。そこで、LDの扉の位置を玄関のほうへずらしているのです。こうすると、68㎡の3LDKでもLDの広さ表示は12帖くらいになります」(碓井氏)

 しかし、旗竿型LDの間取りをよく見ると、LDに取り込んだ廊下の部分が1.5~2.5帖くらいあり、LDとして正味使えるスペースは9.5~10.5帖にとどまる。ダイニングテーブルやソファを置くとかなり窮屈だ。また、旗竿型のLDでは、LDに取り込んだスペースから直接、洗面所や浴室に入る動線になっていることが多い。

 「入浴時に出入りがリビングから丸見えで、家族どうしであってもあまり気持ちのよいものではありません。特に女の子がいる家庭に向かないと思います」(碓井氏)

 もし、70㎡を切るような面積圧縮型の3LDKを検討するなら、少なくとも事前に家具の配置や日常の動線を、間取図の上で慎重に確認したほうがいい。

「ALC版の外壁」は、雨漏りや大地震の被害が心配

 “手抜きマンション”のもうひとつの典型として、よく見かけるのがALC版の外壁だ。

 そもそもマンションの外壁には、大きく分けて2種類ある。ひとつは、柱や梁とともに建物全体を支える「構造壁」。これは設計上、地震の力を受け止めるため、鉄筋コンクリートでできている。もうひとつは、住戸の内部と外部を区切る「非耐力壁」。こちらは建物全体を支えたり、地震の力を受け止めたりする役割はなく、「雑壁」とも呼ばれる。バルコニー側のリビング・ダイニングの壁、共用廊下側の洋室の壁などは通常、この非耐力壁(雑壁)だ。

 「非耐力壁(雑壁)も本来は鉄筋コンクリートでつくるほうが、耐久性や耐震性などに優れています。ところが最近は、見た目には分からないコストダウンのため、ALC版を使うマンションが増えているのです」(碓井氏)

 ALC版とはセメントに気泡をまぜ、その中には鉄筋ではなくもっと細い鉄線を入れ、大きな窯で焼き上げたパネルだ。軽量で工場生産でき、コストは現場施工の鉄筋コンクリートより安く抑えられる。しかし、軽い分、耐久性や耐衝撃性は鉄筋コンクリートより劣る。何より、ALC版は1枚の幅が60㎝~1ⅿほどで、外壁に使う場合は版と版の継ぎ目に樹脂製の詰め物(コーキング)をしなければならない。このコーキングが気温の変化や紫外線、あるいは地震の揺れなどで次第に経年劣化する。やがてひび割れが生じ、そこから雨漏りするリスクがあるのだ。

 碓井氏によると、建物を軽量化することが不可欠な超高層マンションでは、非耐力壁にALC版を使うのは構造設計の観点から仕方ない。しかし、通常の高さ60ⅿ未満のマンションなら、非耐力壁もすべて鉄筋コンクリートにするのが良識あるマンションだという。

 「さらに言えば、非耐力壁(雑壁)を鉄筋コンクリートでつくるにしても、一流と二流があります。一流のマンションは、コンクリートの中の鉄筋を二重配列(ダブル配筋)にして耐震性を高めています。それに対し、二流のマンションはコンクリートの中の鉄筋を一列(シングル配筋)で済ませます」(碓井氏)

 非耐力壁(雑壁)がダブル配筋かシングル配筋かは、阪神大震災や東日本大震災などの大地震の際にはっきり表れる。大地震の被災地で、マンションの玄関横の壁に大きな×印の亀裂が入り、室内がのぞいている写真を見たことがないだろうか。このように大きく壊れた鉄筋コンクリートの外壁は、ダブル配筋よりもシングル配筋の非耐力壁のケースが多いとされる。外壁が壊れると、その住戸に住むことは難しい。補修は可能だが、最低でも1~2か月の期間とコストがかかる。

 ALC版の非耐力壁(雑壁)の場合は、大地震では鉄筋コンクリートに比べてパネル自体が壊れたり、取り付け部が損傷したりする可能性がある。補修にはやはり、相当の期間とコストがかかるだろう。

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室内の「間仕切り壁」は石膏ボードの厚さが大事

 「そのほか、“手抜きマンション”の目印としては、マンションの室内で、部屋と部屋、部屋と廊下などの間を仕切っている間仕切り壁に注目するとよいでしょう」(碓井氏)

 「間仕切り壁」に用いられている石膏ボードの厚さがポイントだ。石膏ボードの厚さには大きく分けて、9.5㎜厚、12.5㎜厚、15㎜厚の3種類あり、マンションでは9.5㎜厚または12.5㎜厚がよく使われる。

 両者の違いはコストと遮音性だ。 12.5㎜厚のほうが当然、コストは高くなるが壁としての遮音性は優れる。壁の遮音性は壁材の重量に比例し、特に浴室やキッチン、トイレなどに接する部屋の間仕切り壁では、石膏ボードを2枚張りにするのでその差はかなり大きい。また、マンションでは室内に上階からの排水を通す竪排水管が2~3箇所通っている。その周囲を覆う壁の石膏ボードが9.5㎜なら、夜中に排水が「シャー」と流れる音がするだろう。耐衝撃性についても同じで、重いものを壁にぶつけた場合、12.5㎜なら多少へこむ程度でも、9.5㎜では割れることがある。

 このように、石膏ボードの厚さというのは、表から見ただけでは分からないが、住み心地を大きく左右する。それでいて、コストの差は原価全体からみればそう大したことはない。そういう重要なところをチマチマとケチるのが“手抜き”と呼ばれる所以だ。

排水管の材質は、厚さ10ミリ以上の「鋳鉄管」がベスト

 最後にもうひとつ、碓井氏に“手抜きマンション”の目印を教えてもらった。それは排水管の材質だ。

 マンションの排水管には、最上階から順に排水を集めてながす「竪管」と、それぞれの住戸内でキッチン、浴室などの排水を竪管につなぐ「横引き管」がある。このうち、重要なのが「竪管」の材質なのだ。

 竪管は、トイレ用(汚水管)が1本とキッチン用、浴室・洗面用がそれぞれ1本(雑排水管)の合計3本、あるいはキッチン用と浴室・洗面用を1本にして合計2本が、各階の住戸内を貫通しており、それが寝室の隣にあったりする。材質によっては夜中に流水音が聞こえたり、また定期的な清掃や将来的には取り換えなどのしやすさも違ってくるのだ。

 排水管の竪管(竪排水管)の材質には大きく分けて、「耐火被覆二層管」「塩ビライニング鋼管」「鋳鉄管」の3種類がある。

 このうち最もコストが安く、性能が低いのが「耐火被覆二層管」だ。これは塩化ビニール管の外側にグラスファイバーを巻いてモルタル(セメント)を塗り付けたもの。本体が軽くて薄いので遮音性が低く、夜中には排水音が聞こえやすい。「一戸建てならまだしも、分譲マンションでこれを使っている物件はおすすめしない」(碓井氏)

 「塩ビライニング鋼管」は多少、ましだ。本体部分が鋼管で、サビを防ぐため鋼管の内側に塩化ビニールを塗布している。耐久性は塩化ビニール管よりは高いものの、鋼管の肉厚が薄いため、やはり遮音性に難がある。

 一番優れているのは「鋳鉄管」だ。これは鋳物の鉄管で本体の肉厚があり、重量も重いので遮音性が高い。将来、砂を含んだ水による高圧洗浄も繰り返しできる。「ただし、最近は肉厚が5㎜程度の製品も出ており、それではいくら鋳鉄製でも遮音性が心配です。少なくとも厚さ10㎜以上ないと安心できません」(碓井氏)

図面集や販売センターの設計図書で、品質の確認を

 今回、ご紹介したような“手抜きマンション”の例や目安については、新築マンション資料の「図面集」にある各住戸タイプの間取り図のほか、販売センターに備え付けてある「設計図書」をチェックするとよい。「設計図書一式」とはマンションを建てるために必要な図面と仕様書をまとめたもので、かなりのボリュームがある。

 「建築に詳しくない人には難しいでしょうが、とりあえず『特記仕様書』だけでも見てください。『特記仕様書』をみれば、非耐力壁(雑壁)の仕様、室内の間仕切り壁に使う石膏ボードの厚さ、竪排水管の材質などが分かります」(碓井氏)

 今回紹介した、“手抜きマンション”かどうかを見分けるチェックポイントは以下の通りだ。

・3LDKの場合、70㎡を切る「面積圧縮型」になっていないか
・外壁の非耐力壁(雑壁)に、ALC版のパネルが使われていないか
・間仕切り壁に用いられる石膏ボードの厚さが12.5mmあるか
・排水管の竪管の材質に「耐火被覆二層管」が使われていないか

 新築マンションは、何千万円もかけて購入する人生最大の買い物だ。きれいな広告のパースや豪華なモデルルームだけ見て決めるのではなく、それなりの時間と労力を割いて本当の品質レベルを見極めよう。

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