《ビジネスアングル》北里研究所/北里大学/Educational Corporation/University 最新鋭の医療空間に息づく医療者の情熱とホスピタリティ

5月7日の開院が目の前に迫った、新しい北里大学病院(神奈川県相模原市)。地域医療の中核、医療人材育成機関としての使命を、従来よりも深化させた新病院は、日本の医療界の明日を予見させる存在でもある。6人のキーパーソンに思いを聞いた。
渋谷明隆
北里大学病院副院長・新病院プロジェクト本部副本部長/北里大学教授(医療安全・管理学、消化器内科医)

 組織のプロジェクト完遂、目標の達成をマラソンに例えることがある。スタートからゴールまでの間、さまざまな困難を乗り越えながら、一歩一歩着実に歩を進めていく。そのプロセスは確かに、マラソンコースのような起伏に富んでいる。

 2005年のプロジェクト発足から約8年の歳月を経て、神奈川県相模原市に新しい北里大学病院がまもなく開院を迎える。

「レース終盤、ようやく競技場をはっきり視界に捉えるところまで走ってきた。でもゴール前には最後の難所、心臓破りの坂が待っているため、気を抜くことはできません」

 副院長であり、プロジェクト本部副本部長として、現場の統括責任者を務めた渋谷明隆は、現在の心境をこう語った。

50年先の医療を見据えプロジェクトを進めた

 1971年の開設以来、神奈川県北西部で高い質と大きな規模を誇る医療機関として、実績を積み上げてきた北里大学病院。高度な先端医療の提供や、医療技術の開発を行う特定機能病院、がん診療連携拠点病院に位置付けられ、国の医療行政を語る上でも重要な存在だ。また、重篤な救急患者に対応する三次救急医療機関としても機能し、地域医療の中核を担う病院でもある。これまでよりもいっそう充実した設備とサービスを提供する新病院の開院は、地域、行政、そして全医療関係者が注目する一大プロジェクトだった。

 四つの長方形をクロスさせた高層階が特徴的な新病院は、1033床の病床と最新鋭の医療設備を導入。近接する北里大学東病院を含めた再編の方向性を固めることが、プロジェクトの最初の課題だった。

地下1階、地上14階の高層棟が印象的な新北里大学病院。屋上にはヘリポートを備える
2010年に県内で三つ目の政令指定都市となった相模原市には市民病院が存在しない。県内北西部唯一の三次救急を担う医療機関として、北里の存在は極めて大きい
救急出動の際に医師が搭乗するドクターカー。
2011年より相模原市および
大和市、座間市、綾瀬市と協定を結び
神奈川県で初となる運用をスタートさせた

「大学病院、東病院で機能的に重複した部分があり、医療資源が分散して非効率な面もあるため、それぞれの役割分担を明確にします。新病院は超急性期医療・救急医療に特化し、東病院はポスト急性期医療を受け持つようにすることで、ハブ病院として、今まで以上に地域医療に貢献していきたい」(渋谷)

 渋谷には「50年後の医療のあり方を見据えた病院づくり」という課題も与えられた。医療に最新鋭のICTが導入される今、数年先の予見さえ難しいが、渋谷は「北里大学病院の存在意義を見つめ直した」と言う。北里イズムを象徴する言葉に「患者中心の医療」「共に創り出す医療」の二つがある。そこに立脚し、強化するための構想を練り上げ、「救命救急・災害医療センター」「周産母子成育医療センター」「集学的がん診療センター」「血管治療部門」の四つの重点医療分野を提案した。

日本トップレベルの先進医療環境を整備した
新北里大学病院

従来からの特定機能病院としての使命に応えるのはもちろんのこと、新たな価値を提供するために、新北里大学病院では下の4項目が重点医療分野とされている。

救命救急・災害医療センター

インフラを含め機能をさらに強化した、大規模な救命救急・災害医療センターを新設。災害時に派遣する医療チーム「DMAT」が組織され、医療活動の拠点に。

周産母子成育医療センター

産科・小児科病棟が併設され、診療科の垣根を越えて子どもたちの病気を診療。胎児から小児の成長過程を一貫して診る「成育医療」を一元化して提供する。

集学的がん診療センター

手術後も抗がん剤、放射線などの長期間の治療が必要ながん。医師、看護師、ソーシャルワーカーが連携し、患者の通院治療まであらゆる面からサポートする。

血管治療部門

高齢者医療では血管病対策が重要。血管カテーテル治療を行う部門を手術室に隣接させた。院内には、脳卒中ケアユニットのSCUなども整備される予定。

「人材育成も大学病院の使命であり、学生が経験を積み、知見を広げられるようサポートする提案も盛り込みました。医療の高度化だけでなく、人を含めたソフトの部分を充実させることが、患者中心の『共に創り出す医療』には欠かせないのです」

 渋谷は「成長する病院」という表現も使った。病院は時代や環境、社会ニーズに合わせて成長しなければいけない。新病院の設計に当たっては、将来の改修や拡張がしやすい構造を採用した。未来起点での発想。事務部長の熊澤豊彦は「それも北里イズムの一つ」だと語る。

熊澤豊彦
北里大学病院事務部長/医事課、人事課、資材課、総務課等を経て、昨年4月より現職

「北里大学病院が開院した43年前の時点で、院長直轄の企画室は、50年先の病院のありようをまとめていました。新病院は、その先見の明が継承されている証しでもあると思います。ただ、本当の正念場はこれからです。大学病院一つで地域医療が完結するわけではありません。地域の医療機関、介護事業者との連携が重要であり、職員の働きやすさの向上、経営視点での収益源の確保と併せ、あるべき姿の実現に向けて、最大限のサポートを行っていくつもりです」(熊澤)

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