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ハーバード・ビジネス・レビュー読者と考える「働きたくなる会社」とは

市場の成熟化とともに、市場での付加価値はモノではなく、サービスに移行しています。企業の競争優位の源泉も資産から人材へと確実にシフトしてきました。その人材に知的能力を最大限発揮してもらうためには、「働きやすさ」を再定義する必要がありそうです。仕事のやりがいとは何か、報酬とは何か、仕事の成果とは何か。そして人の「働きたい」が仕事の成果に直結する時代に思えます。

そんななか、育児休業や給与体系などの人事制度がユニークな企業として知られるのがサイボウズです。社長の青野慶久さんが書かれた『チームのことだけ、考えた。』を読むと、人材管理で何度も壁にぶつかった同社が考えた末に行きついたのが、いまの制度だったことがよくわかります。サイボウズは、「働きたくなる会社とは何か」を考える「ネタの宝庫」かもしれない。こんな考えから、サイボウズを通して日本企業の未来について読者と一緒に考えてみたいと思いました。

岩佐文夫
DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー(DHBR)編集長

このサイトは討論のキャッチボールです。
DHBR読者がここで討論し、導き出された疑問に対し、後日サイボウズ社員が真正面から討議し、返答していきます。

1st Question
DIAMOND Harvard Business Review
サイボウズは給料を「市場性」で決めているそうですが?

岩佐:
市場性で給料を決めるメリットはどういうところにあると思います?

給与は本来、企業の経営意思が最も反映されるものですよね。
ところが、サイボウズでは給与を社内ではなく「市場価値」で決めていているそうです。社内で給与テーブルというものがあるわけではなく、「あなたが転職するといくらでオファーがきますか?」という転職市場の値段で決めるといいます。

非常に面白く、大胆な制度だと思うんですが……これは果たして、ほかの日本企業でも通用するのか?

(まずは、こんな問いかけで始めてみましたが。しばし、沈黙40秒…※カッコ内は岩佐の心の声です)

斉藤高広さん
フロンティア・マネジメント アジア事業部 ディレクター 銀行勤務を経て、M&Aアドバイザリーに従事

斉藤:
あの……ひとつは、社員が自分の市場価値を高めるために、自己研鑽するようになること。会社に寄生するのではなく、外部の第三者を意識した働き方ができるんじゃないかと思いますね…それは社員にとってメリットかと。

丸山夏名美さん
バリュープレス コミュニケーションプランナー PR支援会社にてマーケティングなどを担当

丸山:
うん、そうでしょうね。中に閉じこもらずに外にも視野を向けられるようになりますよね。会社の中しか見ていないと、同僚だけと競争することになる。外に目を向ければ、もっとすごい人がいるということに気づくことができますね。

(笑い)

岩佐:
外部の人と比較する意識が働くということですね。

大里真理子さん
アークコミュニケーションズ代表取締役 翻訳・Web制作会社を経営

大里:
ちょっと言っていいですか?
私は経営者の観点から見たら、青野さんラクしすぎ。ずるいよ。

(一同爆笑)

経営者からしたら説明簡単ですものね。ものにたとえたら、この水ってどこの店でも100円で売ってるから、当然100円に決まっているじゃないというのが、社員の給与にも言える。これ経営者として、すごくラクで素晴らしい。

(笑い)

論理的な説得力もあると思いますし、市場における公平性もとってもあると思う。頭いいなと。

サイボウズの青野社長はラクをしているのか?

(いい言葉をいただきましたので、キャッチにしてみました↑ 大里さんはケロッグでMBA取得されています)

岩佐:
ラクっていうのは面白いですね。

土井剛さん
内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室 参事官補佐 三井住友海上から出向し、内閣官房でIT戦略を担う

土井:
市場の価値という点でいうと、たくさんの人に良い人といわれるってことは、それだけ本当にいい人だと思うんですね。たくさんの人から良いと思われている人にいい給料を出す制度は、よく考えられているなと思いました。

ただ気になったのは、自分の市場価値を追求するあまり、自己中心的になる人が出てくることです。実際のところ、市場性だけではなく、他のいろいろな制度があって初めて成り立っている給与制度なのかも……。

岩佐:
逆に言うとこの制度が仮に良かったとしても、それだけでは他の企業じゃ成り立たないというわけですね。

土井:
だと思います。

岩佐:
他の制度のことはサイボウズ社長・青野慶久さんの著書『チームのことだけ、考えた。』にいっぱい書いてありました。この本を読んで疑問は湧きませんでした?

斉藤:
ちょっと一点。デメリットに近い話だと思うんですけど。人材のスペックっていうことでは、新卒や第二新卒は定量的な判断基準があると思うんです。つまり学歴や資格ですね。

しかし35歳頃からは、定量面より定性面を判断基準にされます。そのような人材に対して、適正年収をどう決めるのか。難しいところではないでしょうか。かつ評価される人に納得感があるのかというのが、市場性に求めることのデメリットというか疑問点ですね。

(斉藤さんは何度か転職をされています。この視点は議論が膨らみそうです)

岩佐:
定性面というのは?

斉藤:
リーダーシップでいえば、この人がいれば会議がワーッとなって新しいイノベーションが起きるというのもあるかもしれない。そんな人の能力はスペックに出てこない。コミュニケーション能力や人脈なんかも含まれると思います。人脈は名刺を千枚持っていても、それがどうワークするのかというのがあると思うので。

特に営業マンの実績なんて、ほかの人とは比べられません。サイボウズのやり方では、そんな定性的な能力を給料の額に落とし込めるのか。そこが本を読んで今一つ納得できなかった部分ですね。

Jリーガーは需給で給料が決まる、ではサラリーマンは?

津田和樹さん
JSR石化事業部 エラストマー部 元JリーガーでMBA取得者。現在は合成ゴムの営業を担当

津田:
市場性っていっても、やっぱり会社によって払える金額は違いますよね? 

(津田さんも参戦! 津田さんは元Jリーガーで、しかも現役選手でありながらMBAを取得したという世界的に見ても稀有なキャリアの持ち主です)

岩佐:
津田さん、元Jリーガーとしてサッカー選手の給料の決まり方について教えてください。

津田:
サッカー選手の給料は需要と供給でほぼ決まります。つまり同じポジションで競合する選手がいないと年俸は上がって、たくさんいれば下がります。数字には表れないリーダーシップなどは、いくらあったとしても、試合に出ていなければ意味がありません。だからまずは試合に出ることが大事。そのうえで、どれだけチームに貢献しているかが評価されることになりますね。

岩佐:
津田さんはもともと右利きなのに、小学校の頃から左足で蹴る練習をして、Jリーガー時代は左サイドバックでした。これは差別化のためですか?

津田:
そうです。左利きの選手は少ないですし、走る距離が長いサイドバックをやりたがる人はいないですから。供給が少ないポジションなら自分が生き残れると考えました。

斉藤:
って考えてたんですか?

津田:
考えてましたね。

斉藤:
そうなんですか! へ~~

岩佐:
そんな世界からサラリーマンの世界に飛び込んで、感じたことは?

津田:
やはり年功序列的なところとか、評価基準があいまいな部分があり、必ずしもフェアな評価が行われているとはいえないかもしれません。

ただ、組織のなかに長くいることで蓄積される英知というのもあって、それは評価するのが難しい。だから、個人の定量的な能力だけで給料を決めるのは、困難なのかもしれませんね。

(津田さんの視点が面白いので、しつこくサッカーの話を続けてしまっています)

大里:
サッカー選手でも、J2の試合に出場したときと日本代表の試合に出場したときでは、出せる成果は違うと思う。同じ人でも、小さな会社にいるか大きな会社にいるかで発揮できる成果は違いますよ。

それなのに本当に市場性だけで給料が決められるの?って思います。経営者としては、いくらでも給与を出せるわけではないんです。「うちの会社のこのポジションはこれくらい」という決め方が、わかりやすいのでは。

土井:
僕が保険会社のCIOとしてブラジルに駐在していたとき、採用も担当していました。

面接に来た人には、「僕らが目指す保険会社トップ20のIT部長の給料はこれくらい。他社の同じポジションの人に勝てたら、もっと給料を高くしてあげる」、そういう説明をしていました。他社の同ポジションの人材と比較することで、本人のモチベーションにつながっていたようです。サイボウズのやり方も、それと近いのかなと思いますけどね。

津田:
僕が疑問に思ったのは、ジョブローテーションができるのかということ。たとえば将来の幹部候補者を、営業部からマーケティング部に異動させて経験を積ませたりします。

そうすると、その人はマーケティングでの経験はないので、市場性ということで考えれば一時的に評価は低くなりますよね。そうなったときに、「だから今年は年収300万円ね」と言われて、本人は納得できるのか……。

岩佐:
ジョブローテーションの視点は考えてもみなかった。ジョブローテーションは終身雇用が前提だから成り立つんですかね。1年ごとのパフォーマンスで給与が決まるとしたら、本人にとってジョブローテーションはリスクが大きすぎ。

土井:
ブラジル時代に部下のIT部長を事務部門の部長にローテーションさせたことがあります。「ITと事務ができる人材になってくれ」と説得して。彼は「自分の市場価値が上がる」と納得していました。そういう意図をわかってもらえれば、非常に人材流動性が高いブラジルのような労働市場においても、本人はリスクを取ってジョブローテーションを引き受けてくれます。

津田:
ジョブローテーションにリスクがあると、自分の得意分野だけを垂直的に伸ばせばいいと考えてしまい、プロフェッショナル化が進む懸念があるような気がします。

岩佐:
でも、どうなんでしょう。「1つのスキルを垂直的に伸ばして、サイボウズのなかでの評価を高めていきたい」という考えもあれば、「短期的には評価が下がるけど、まずは幅広い分野のスキルを身につけて、将来的には“T型人材”として高い評価を得よう」と長期的な視点で考えることもできる。どちらも選択できる自由がサイボウズにはあると言えるんじゃないかな?

滝口健史さん
スコラ・コンサルト 組織プロセスリサーチャー 企業の組織風土・体質を改革するコンサルタント

滝口:
T型人材ってどの会社にも必要だと思うんですけど、T型でジェネラルであるほど、労働市場だと結構、不利に働くっていうのはあると思います。

(滝口さんは組織アセスメントの専門家で、冷静な分析を期待できそう)

私は本を読んで、「理想を定性的に評価したい」と書かれていたり、意思決定において、起案者と承認者に説明責任を求めたりしているのに、給料のところだけは世の中で揉まれた数字をそのまま使っている点にちょっとだけ不整合を感じました。

たとえば承認者が誰かに仕事を任せるときに、「こいつはリーダーシップがあるからやらせた」と定性的な意思決定をするようなことが許されてもいいんじゃないかと思いますけどね。

岩佐:
やっぱり青野さん、ラクしすぎかもね。

(笑い)

チームワークの会社がチームワーク力を評価しないのか…

(議論はまだまだ拡散していますが、ローテーションの話など、意外な視点が出てくるな。外部で評価されるスキルと社内で評価されるスキルの違いについて、聞いてみよう)

岩佐:
では、こういう人はどう思いますか。
会社に20年も30年も在籍していて、「この人に聞けば何でもわかる」「あの人に根回しをしておけば間違いない」みたいな人。会社にとっては重要な存在ですが、市場での価値は決して高くないかもしれません。

斉藤:
じつはそういう仕事って重要なんですよ。ハーバード・ビジネス・レビューでも「いぶし銀」という話がありましたけれども、やっぱりそういった仕事って実は必要であって。

銀行では、総合職は数年ごとに異動になり、一般職はずっと同じ支店にいます。だから支店のことなら一般職の方に聞くのが一番早い。そういった人は組織の潤滑油のような存在でもある。なのに、サイボウズの基準ではそんな人は給料が低くなってしまうかもしれない。不公平感があります。

岩佐:
では、サイボウズのやり方は「日本企業の未来にどうプラスになるのか」と考えたときに、そういう仕事はあったほうがいいのか、ないほうがいいのか?

津田:
経営者から見ればないほうがいいんじゃないですかね。属人的になってしまうので、その人がいなくなってしまったら組織が回らなくなったり不具合が起きたりする。そういう人をまた育てればいいとは思うんですけどね。

大里:
逆だと思う。経営陣にとってはそういう人は、ありがたい。

市場性のある人は入れ替えが利きますが、「うちの会社のことなら何でも知っている」みたいな人は、入れ替えが利きません。それにそういう人は、えてして給料が安い。低コストで高パフォーマンスなんです。だから経営者にとってはありがたい存在ですよ。

岩佐:
社内スキルだけはあるけど市場の評価は低い人材が、意外と会社を支えているのはわかる。

でも、もし会社がつぶれたときに、彼らは路頭に迷うというリスクがある。そういう人が、これまでの日本企業を支えていたのはわかるのですが、今後は必要なのかどうか。サイボウズのような会社でそういう人材はつくられるのか……。

丸山:
たとえば「組織の雰囲気を明るくして、笑顔にしてくれる」といった能力があっても、サイボウズの基準では給料が低くなってしまうかもしれない。でもある意味、そのほうが不公平感がないともいえます。

あいつのほうが好きだから、絶対に丸印付けるみたいな。360度評価みたいなものは絶対不公平感が出てしまうと思う。定性的な面は除いて、定量的な面だけで評価をすればいいから。

岩佐:
しかしですよ! 僕はこれが、コミッション型の外資系生命保険会社がこの仕組みをやっていたら、全然議題にしようとは思わない。

サイボウズって、チームワークを広めようという会社ですよね。笑顔が評価される会社なんですよ、絶対。チームワークとか言っている会社が、一人ひとりを外部の市場で評価するという、この矛盾は何なんだと。

土井:
「評価」というか「給料」だけなんじゃない、市場評価で決めるのは?

岩佐:
あ、いいこと言った。

土井:
給料だけなんですよ。で、給料じゃない部分が違うんじゃないかっていう。そこはもしかしたら大事かも。

岩佐:
そこで公平さが生まれるだろうか?

滝口:
青野社長の著書『チームのことだけ、考えた。』のなかでは、「給与制度で完全に公平性を追求するのは無理だとわかったから、外部の尺度である市場性を使う」と。で、「それとは別に個人評価をする」というようなことが書かれていましたね。

斉藤:
でも評価されているのにリターンがないと、それはそれで……。お金だけではないですけど、お金はやっぱり大事ですから。

滝口:
他の方法でどう満足度を上げるか。時間とか、自由とか。お金って、いろいろな要素のなかで、すごくとらわれやすいところがあって、他が低くてもお金が高いとそっちに飛びつきたくなるような、他とちょっと違うウエイトがあるので。その意味で給料は世の中どおりにして、あとはそれ以外をどう満足させるのか……。

大里:
極論すれば、給与制度はどうでもいいのかも。

給料の基準は市場に合わせるという方法で手を抜く。その代わり、「君はこう成長させてあげるから」とか「こんなチャンスをあげるよ」と言って、給料以外の部分で社員の満足度を上げる方法なのではないでしょうか。

岩佐:
すごいのは、市場より高い給料を出そうとは思っていないってことです。

Evernoteもシリコンバレーの会社では給料が高くないけど、理念に賛同する優秀な人材が集まる。サイボウズも同じで、自分たちの理念に賛同してくれる人だけを集めようという意図があるのかもしれませんね。 何だかサイボウズをほめてばかりだと、面白くないなぁ。

(笑い)

ちんたら働きたい人にとって居心地のいい職場?

(なんだか話し合いを続けるとサイボウズの良さが逆に際立ってくるのは面白い。でも、それではこの企画としては面白くない。方向転換のためには、難癖でもサイボウズの死角を探さないと…)

岩佐:
サイボウズは今後、世界でただ一つのユニークなビジネスをつくろうとしています。そのためには差別化された、独自の強みを持つ人材が欠かせないと思います。果たしてサイボウズの今の仕組みで、そんな人材をつくることができるのでしょうか。

斉藤:
オンリーワンな人材やイノベーティブな人材って、基本的にはヘンタイですから、公正に評価したり育てたりするのは難しいですよ。

(笑い)

滝口:
いや、オンリーワン人材は希少価値が高いんだから、サイボウズではがっぽり給料をもらうことはできるのでは? 市場では低く評価されてしまう人が、サイボウズ内ではどう評価されているのか、知りたいところですね。

大里:
今のサイボウズのフェーズではそんなにとがった人材はいらないのかも。

何せグループウェアを突き詰めていこうとしているんですから、新規ビジネスを考えるような人はいらないじゃないでしょうか。

岩佐:
では、「給料はそこそこでいいから、サイボウズの自由な雰囲気、キレイなオフィスで、ちんたら働きたい」。こういう人は……。

大里:
サイボウズでは居残れるんじゃない? チームワークは大好き、だけど成長はしたくない、という人。

岩佐:
成長したくないという人を受け入れるのも、サイボウズの「多様性」ですか。

丸山:
でも、ちんたら系社員が増えると、社内の雰囲気は確実に悪くなりますよ。

津田:
いや、逆にちんたら系の人同士でチームワークがよくなるかもしれない。

(笑い)

岩佐:
働きやすい会社はいいんですけど、「誰でも働きやすい」じゃなく、「パフォーマンスを出したい人が働きやすい」会社じゃなければいけませんよね。

土井:
世の中の働きやすい会社って、その反面、評価が厳しいのが基本。成果を出さなかったらすぐにクビになったりとか。サイボウズはそういう厳しさは感じさせないのに、会社として成り立っている様子が見えますから。その秘密は何なんだろう? 知りたいですね。

岩佐:
なるほど、そのあたりですね。

今回の議論をまとめると・・・

DHBR討論を終えてサイボウズへの質問
自社特有のナレッジって必要ないの?

市場性で給料を決めるなら、社内では優秀だけど市場性がない人には給料が出せなくなってしまう。それでは、社内ノウハウや人脈を持った人を評価できない。暗黙知が組織内で受け継がれるような風土や、そのようなことに長けた人材は、サイボウズには必要ないと考えているのか……。
そのあたりをお答えください。

この回答はサイボウズ式で!
3月17日(木)に公開

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