【第1回】 2008年10月16日
「うつ」は心の弱い人がかかるもの?
――「うつ」にまつわる誤解 その(1)
「8人に1人がうつ」の時代
今年4月に新聞等でも報道されましたが、ファイザー株式会社が12歳以上対象の調査を行なった結果、8人に1人、つまり12%もの人が「うつ病」か「うつ状態」にあると考えられるという報告がありました。この数字が示していることは、もはや「うつ」というものが対岸の火事ではなく、どんな人にとっても避けて通れない身近な問題になってきているということです。
そこで本連載は、毎回「うつ」について巷(ちまた)にあふれている様々な誤解に1つずつ焦点を当て、それを元にして、従来ありがちだった説明にとどまらず、「痒いところに手が届くような」斬新な「うつ」の見方やアプローチを、わかりやすくお伝えしていきたいと思っています。
「心が弱い」ってホント?
――「心の弱い奴が、『うつ』になるんだ」。
――「『病は気から』なんだから、強い精神力があれば『うつ』になるはずがない」。
こんな考えを持っている人は、いまでも決して少なくありません。実際に「うつ」のクライアント(患者さん)の周りにいる同僚や上司、またご家族などでも、表むきは違っても、内心こんなふうに思っている方も結構いるでしょう。
しかし、ほかの誰にも増してこのように考えているのは、当のクライアント自身です。ひたすら「弱い自分」「ダメな自分」を責め続け、空回りし、状態を自ら悪化させているのです。いわば「へたった馬に、鞭(むち)をひたすら打ち続ける」ような状況に陥ってしまっています。
それにしても、「心が弱い」ということがあるのでしょうか? また、「精神力」というものの実体は一体何なのでしょうか? そしてそれは、「うつ」とどんな関係があるのでしょうか?
そこでまずは、「心」や「精神」という言葉で私たちが漠然と指しているものを、一度きちんと整理してみるところから始めてみましょう。
人間を理解するために必要な
「頭」「心」「身体」の関係
| 【図1】 |
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右の【図1】をご覧ください。これは、私たち人間の仕組みを、普段使いなれている「頭」「心」「身体」という3つの言葉を使って簡単に図式化してみたものです。
最近は「脳ブーム」の時代ですから、「『頭』とか『心』と言っても、そんなの全部『脳』のことだろう?」と思う方もあるかもしれません。
確かに、大脳生理学的に言えば「新皮質」「旧皮質」といったような分け方をすべきなのかもしれませんが、私がこれからお伝えしたいことを説明していくうえでは、それは必ずしも使い勝手がよくありません。むしろ、皆さんが日常的に使い慣れているこの「頭」や「心」という言葉の方が、きちんと定義付けして用いさえすれば、意外に奥行きがあって、人間のからくりを理解するためには大変有用なツールなのです。
不安な感情は、
「心」ではなく「頭」が生んだもの
基本的に動物は、「心」=「身体」のみでできていると考えられます。図でおわかりのように、文字通り「一心同体」で「身体」とつながっています。ですから、決して「心」と「身体」は、矛盾したり対立したりすることがありません。喉が渇けば、水を飲みに行く。眠くなれば、寝る。実にシンプルです。
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著者プロフィール
- 泉谷閑示
(精神科医)
1962年秋田県生まれ。東北大学医学部卒。東京医科歯科大学医学部付属病院医員、(財)神経研究所付属晴和病院医員、新宿サザンスクエアクリニック院長等を経て、現在、精神療法を専門とする泉谷クリニック院長。著書に『「普通がいい」という病』(講談社現代新書)と最新刊の『「私」を生きるための言葉』(研究社)がある。
「泉谷クリニック」ホームページ
この連載について
いまや8人に1人がかかっているといわれる現代病「うつ」。これだけ蔓延しているにもかかわらず、この病気に対する誤解はまだまだ多い。多数の患者と向き合ってきた精神科医が、その誤解を1つずつひも解いていく。
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