【第18回】 2009年06月25日
「逃げる」のは悪いこと?―ウツの人にもよく向けられる精神論
――「うつ」にまつわる誤解 その(18)
日本人の大好きな精神論の1つに「逃げてはならない」という考え方があります。これが昔から日本人の勤勉さや忍耐力の支柱となり、社会の繁栄に貢献してきたことは間違いのないところでしょう。特に、封建的な社会を生き抜いたり、貧困等の問題を克服したりしなければならない状況下では、この種の精神論は有用なものだったと考えられます。
しかし、今日の多様化した時代を生きる私たちの内部では、このような旧来の精神論と「自分らしく生きたい」という自然な欲求とがしばしば不調和を起こし、さまざまな苦悩を引き起こすようになってきています。「うつ」状態に陥る人が増えている背景としても、この問題の存在は無視できません。
また、「うつ」の状態について周囲から「逃げ」と見られてしまったり、本人自身もそう思って自責の念にとらわれてしまったりすることもあります。
今回は、この「逃げ」というテーマをめぐって考えてみましょう。
“逃げ”は積極的な危険回避行動
――これって逃げなんでしょうか?
よくクライアント(患者さん)から質問されるフレーズです。
これに対して、「そうですね、逃げだと思います」または「いいえ、決して逃げではありませんよ」と答えることは、いずれも適切ではありません。それはなぜでしょうか。
まず、この問いかけにおいては、「逃げ」という言葉にあらかじめネガティブな意味が込められています。これをそのままにして返答するのでは、それがYesであってもNoであっても、「逃げ」=「悪いこと」の価値観が温存されたままになってしまっています。
この問答では、たとえ「逃げではない」という話に落ち着いたとしても、いずれ別の問題に突きあたったときに、再び「この決断は逃げではないだろうか?」と、同じ問いを発しなければならなくなってしまいます。そこで必要なのは、この「逃げ」という言葉に付着したネガティブな意味を引きはがしてしまうことなのです。
たとえば、家が火事になったら人は逃げるものでしょうし、戦国時代の合戦などにおいて明らかに形勢不利な場合には、いったん兵を引き上げて(つまり「逃げ」て)援軍を得たりするでしょう。
「心」にとって「逃げ」は自然な反応
このように、決して一概に「逃げ」が「悪いこと」や「消極的なこと」だとは言えないわけです。生き物である私たち人間は、自分が置かれている状況が自分にとって危険だったり不快だったりする場合には、自然な反応として「逃げよう」とするものです。これは、私たちの「心」(=「身体」)が行なう反応です(第1回参照)。
Special Topics
バックナンバー
- 最終回
- 「ウツ」が治るとは、元に戻ることではない――新しく生まれ直す“第2の誕生” (2009年09月17日)
- 第23回
- なぜ自分を傷つけてしまうのか?――新しい「ウツ」に見られる自傷や過食の病理 (2009年09月03日)
- 第22回
- 「努力」に価値を置く危険性――「ウツ」を生み出す精神的母体 (2009年08月20日)
- 第21回
- パニック障害と「ウツ」――“いま”を生きづらい現代人への警鐘 (2009年08月06日)
- 第20回
- 「自信が持てない」―現代の「ウツ」に潜む悩み (2009年07月23日)
- 第19回
- “何もしない時間”は無駄なのか?――「ウツ」を引き起こす「有意義」という言葉 (2009年07月09日)
Pick Up
新着トピックス
- 田中秀征 政権ウォッチ
- 鳩山首相「発言のブレ」正当化に疑問を呈す
- 「稼げるチーム」をつくる!営業マネジャーの教科書
- 叱っても部下が辞めない!? 上司が知っておくべき「叱る技術」
- 評価が上がる!上司を味方にする技術
- 上司に好かれる話の聴き方、嫌われない質問の方法
- 「引きこもり」するオトナたち
- 「引っ込み思案の目立ちたがり屋」が 陥りやすい“社会不安障害”の苦しみ
- inside Enterprise
- キヤノン、日立の液晶合弁 “婚約”すれど“結婚”できぬ理由
- 美人のもと
- 鳩
- 堀尾研仁の“使える!ゴルフ学”
- 【第34回】アマチュアゴルファーのお悩み解決セミナー Lesson34「フェアウェイバンカーからクリーンにボールを打つコツ」
- China Report 中国は今
- 優秀な中国人学生を採用できなくなった日本企業
ダイヤモンドオンラインplus 知っておきたい価値ある情報
最新の連載一覧
経済・時事
経営・戦略
スキル・キャリア
Diamond Premium 最新記事 無料会員登録すると全文が読めます
- 金融市場異論百出
- 超インフレ国はジンバブエのみ 世界が学んだ「最低限の規律」
- 週刊ダイヤモンド 企業特集
- ユニー 前村哲路社長インタビュー 「現場の自由裁量権を広げ 個店経営のウエートを高める」
- 『社会貢献』を買う人たち
- キレイになって、途上国を支援! 女性の飽くなき「美への探求」が生んだ、一石二鳥のビジネスモデル
- 山崎元のマネー経済の歩き方
- 対等合併の呪
- 野口悠紀雄 未曾有の経済危機を読む
- 総需要の減少をもたらした2つの要因 ──今こそ必要なデフレの経済学(5)

- 「測るための標準」を考える
- 紀元前2500年頃に造られたピラミッドの建築に当たっては、常に同じサイズの石を…

- DOL編集部のツイッターを開始
- 最新記事の話題から編集部の日常まで、24時間つぶやきます。フォローよろしくお願いします。
Business information
著者プロフィール
- 泉谷閑示
(精神科医)
1962年秋田県生まれ。東北大学医学部卒。東京医科歯科大学医学部付属病院医員、(財)神経研究所付属晴和病院医員、新宿サザンスクエアクリニック院長等を経て、現在、精神療法を専門とする泉谷クリニック院長。著書に『「普通がいい」という病』(講談社現代新書)と最新刊の『「私」を生きるための言葉』(研究社)がある。
「泉谷クリニック」ホームページ
この連載について
いまや8人に1人がかかっているといわれる現代病「うつ」。これだけ蔓延しているにもかかわらず、この病気に対する誤解はまだまだ多い。多数の患者と向き合ってきた精神科医が、その誤解を1つずつひも解いていく。
アクセスランキング
- 1位
- 今週のキーワード 真壁昭夫
- キム・ヨナやサムスンに“脅威論”が噴出 「日本はもう韓国に勝てない」は本当か?
- 2位
- 「引きこもり」するオトナたち
- 成績優秀なのに仕事ができない “大人の発達障害”急増の真実
- 3位
- はい上がれる人、はい上がれない人――「負け組社員」リベンジの十字路
- “人生の負け組”が勢ぞろい! 負け組リベンジの名門「奇跡の屋台ラーメン」
- 4位
- 『週刊ダイヤモンド』特別レポート
- 県が格安で手に入れた茨城空港 「軍民共有化」というカラクリ
- 5位
- 政局LIVEアナリティクス 上久保誠人
- 参院選がどう転んでも、 政界の「世代交代」加速は止められない
Recommend 話題の記事
- 山崎元のマルチスコープ
- 官民一体の海外ビジネス受注期待を怪しむ
- ミドルマネジャーのための「不機嫌な職場」改革講座
- この閉塞感はどうにもならないのか? 組織の成果を最大化する人事制度とは
- ビジネスモデルの破壊者たち
- 知恵と包丁は使い様!次々と有名シェフを 生み出す料理専門CATV局の躍進
- 今週のキーワード 真壁昭夫
- キム・ヨナやサムスンに“脅威論”が噴出 「日本はもう韓国に勝てない」は本当か?
- 『週刊ダイヤモンド』特別レポート
- 県が格安で手に入れた茨城空港 「軍民共有化」というカラクリ
- SPORTS セカンド・オピニオン
- 大リーグ球団にとっての、日本人選手の価値を考える
- 政局LIVEアナリティクス 上久保誠人
- 参院選がどう転んでも、 政界の「世代交代」加速は止められない
- 野口悠紀雄 未曾有の経済危機を読む
- 総需要の減少をもたらした2つの要因 ──今こそ必要なデフレの経済学(5)
- 今週の週刊ダイヤモンド ここが見どころ
- あなたは保険会社に騙されている!? 「保険見直し」のバイブルが登場

- 【PrimeTime】トップインタビュー
- 「サービス力は人財力と組織力の掛け算」~百瀬次生・日立電子サービス社長

- 【THEProject】プロダクトとサービス最前線
- 現実味帯びる「IFRS」。最新会計基準対応処理システムを低コストで提供
雑誌定期購読のご案内
特大号・特別定価号を含め、1年間(50冊)市価概算34,500円が、定期購読サービスをご利用いただくと25,000円(送料込み)。9,500円、約13冊分お得です。さらに3年購読なら最大49%OFF。
1冊2,000円が、通常3年購読で1,333円(送料込み)。割引率約33%、およそ12冊分もお得です。
特集によっては、品切れも発生します。定期購読なら買い逃しがありません。
年間12冊を定期購読すると、市販価格8,400円が7,150円(税・送料込み)でお得です。お近くに書店がない場合、または売り切れ等による買い逃しがなく、発売日にお手元へ送料無料でお届けします。
※別冊・臨時増刊号は含みません。
偶数月の1日発売(隔月刊)。1年購読(6冊)すると、市販価格 5,880円→4,700円(税・送料込)で、20%の割引!
※別冊・臨時増刊号は含みません。
お知らせ・ご案内
- 会員専用ページ開始のお知らせ
- 7月より一部の記事で、無料会員登録した方だけが全文を読める形に変わりました。詳細はこちらをご覧ください。




