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8人に1人が苦しんでいる!「うつ」にまつわる24の誤解 泉谷閑示

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「逃げる」のは悪いこと?―ウツの人にもよく向けられる精神論

――「うつ」にまつわる誤解 その(18)

 日本人の大好きな精神論の1つに「逃げてはならない」という考え方があります。これが昔から日本人の勤勉さや忍耐力の支柱となり、社会の繁栄に貢献してきたことは間違いのないところでしょう。特に、封建的な社会を生き抜いたり、貧困等の問題を克服したりしなければならない状況下では、この種の精神論は有用なものだったと考えられます。

 しかし、今日の多様化した時代を生きる私たちの内部では、このような旧来の精神論と「自分らしく生きたい」という自然な欲求とがしばしば不調和を起こし、さまざまな苦悩を引き起こすようになってきています。「うつ」状態に陥る人が増えている背景としても、この問題の存在は無視できません。

 また、「うつ」の状態について周囲から「逃げ」と見られてしまったり、本人自身もそう思って自責の念にとらわれてしまったりすることもあります。

 今回は、この「逃げ」というテーマをめぐって考えてみましょう。

“逃げ”は積極的な危険回避行動

――これって逃げなんでしょうか?

 よくクライアント(患者さん)から質問されるフレーズです。

 これに対して、「そうですね、逃げだと思います」または「いいえ、決して逃げではありませんよ」と答えることは、いずれも適切ではありません。それはなぜでしょうか。

 まず、この問いかけにおいては、「逃げ」という言葉にあらかじめネガティブな意味が込められています。これをそのままにして返答するのでは、それがYesであってもNoであっても、「逃げ」=「悪いこと」の価値観が温存されたままになってしまっています。

 この問答では、たとえ「逃げではない」という話に落ち着いたとしても、いずれ別の問題に突きあたったときに、再び「この決断は逃げではないだろうか?」と、同じ問いを発しなければならなくなってしまいます。そこで必要なのは、この「逃げ」という言葉に付着したネガティブな意味を引きはがしてしまうことなのです。

 たとえば、家が火事になったら人は逃げるものでしょうし、戦国時代の合戦などにおいて明らかに形勢不利な場合には、いったん兵を引き上げて(つまり「逃げ」て)援軍を得たりするでしょう。

「心」にとって「逃げ」は自然な反応

 このように、決して一概に「逃げ」が「悪いこと」や「消極的なこと」だとは言えないわけです。生き物である私たち人間は、自分が置かれている状況が自分にとって危険だったり不快だったりする場合には、自然な反応として「逃げよう」とするものです。これは、私たちの「心」(=「身体」)が行なう反応です(第1回参照)。

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著者プロフィール

泉谷閑示
(精神科医)

1962年秋田県生まれ。東北大学医学部卒。東京医科歯科大学医学部付属病院医員、(財)神経研究所付属晴和病院医員、新宿サザンスクエアクリニック院長等を経て、現在、精神療法を専門とする泉谷クリニック院長。著書に『「普通がいい」という病』(講談社現代新書)と最新刊の『「私」を生きるための言葉』(研究社)がある。
「泉谷クリニック」ホームページ

この連載について

いまや8人に1人がかかっているといわれる現代病「うつ」。これだけ蔓延しているにもかかわらず、この病気に対する誤解はまだまだ多い。多数の患者と向き合ってきた精神科医が、その誤解を1つずつひも解いていく。

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