【第27回】 2010年01月19日
「見とおし童児」
鹿児島県に伝わる民話に、「見とおし童児」という次のような話がある(*1)。
昔、琉球に、うしゅの坊という賢い子供がいた。うしゅの坊は、まちゃくという貧しい友だちを助けてやりたいと思った。それで、うしゅの坊は自分の家から黄金箱を盗み出して砂浜に埋めておいた。黄金箱がなくなって家が大慌てになったところで、うしゅの坊は、まちゃくの鼻はとてもよくて、どんなに遠くからでも黄金の匂いを嗅ぎあてられると両親に告げた。普段から賢い孝行息子がそう言うものだから、それならば探させてみろということになった。うしゅの坊はまちゃくを連れて砂浜に行き、自分で埋めた黄金箱を掘り出し、あたかもまちゃくが見つけたようにして家に持って帰った。両親はたいそう喜んで、まちゃくにたっぷりお礼をした。
金の匂いを嗅ぎあてる不思議な琉球の子供の噂話は、薩摩の国中に広まった。すると、金でできた釜を盗まれた薩摩の殿様が、釜を見つけようとまちゃくを呼び出した。しかし、今度は仕掛けがないから見つかるわけがない。まちゃくは困ってしまった。うしゅの坊は、人目につかない林の中に三間角の家を建て、じっくりと匂いを嗅ぐと殿様に言ってその中で3日間過ごせば、犯人は必ず現れると知恵を授けた。
まちゃくが言われたとおりにすると、3日目の夜に男が金の釜を持って現れた。匂いで探されては逃げきれないし、捕まれば命がない。後生だからおれのことは黙っていてくれと言う。まんまと金の釜を取り戻したまちゃくは、薩摩の殿様からたっぷり褒美をもらった。
このことがさらに評判になって、まちゃくは唐の国にも呼ばれ、幸運も手伝って再び金の盗品を取り戻した。まちゃくは唐の殿様から黄金をたくさんもらって国に帰り、それからは豊かに暮らしたそうだ。
*1:以上の話は『一寸法師・さるかに合戦・浦島太郎:日本の昔ばなし(Ⅲ)』(関敬吾編、岩波文庫、1957年)所収の「見とおし童児」に脚色をほどこしたものである。
両親はなぜだまされたか
「見とおし童児」はとてもよくできた話で、さまざまな味わい方があると思う。ここでは、うしゅの坊の両親と薩摩の盗人がだまされた理由を考えてみたい。
まず第1に、うしゅの坊が両親をまんまとだまして、金の匂いを嗅ぎあてる子供を作り上げた戦術である。これは、古くからある「サクラ」の応用だ。
あまりにあからさまなサクラは寅さん映画くらいでしか見ないが、もっときわどいものだと応用例はたくさんある。行列のできるような店にはいっそう人が集まるから、あえて割引券を配り行列ができるほど一度に客を呼び込む。知名度の低い音楽家は、無料の入場券を配ってでもコンサート会場をいっぱいにしたがる。割引券や無料入場券を受け取った人たちが、知ってか知らずかサクラの役割を果たしているのである。
そのようなサクラ戦術が功を奏するのは、私たちが自分では判別できない品物の質を判定するときに、他人の選択を参考にするからである。しかも、このいわば他人任せの判断方法は、前提さえしっかりしていれば合理的でもあるから、この戦術は有力なのだ。
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著者プロフィール
- 梶井厚志
(京都大学経済研究所教授)
1963年広島県生まれ。86年一橋大学経済学部卒業、91年ハーバード大学Ph.D.(経済学博士号)取得。専攻は経済理論、特に情報の経済学、一般均衡理論、ゲーム理論。ペンシルバニア大学経済学部助教授、筑波大学社会工学系助教授、大阪大学社会経済研究所教授を経て、2003年より現職。 著書に『ミクロ経済学:戦略的アプローチ』『戦略的思考の技術』『故事成語でわかる経済学のキーワード』などがある。梶井厚志のホームページ
この連載について
身近な言葉の中にも戦略的思考の可能性が潜んでいる。本連載では、身近な言葉や格言・昔話から、そこに潜む経済学的なアイディアや戦略的な含意を探る。
なぜ私たちは「どうも」「お疲れさま」「よろしくお願いします」を、これほど使ってしまうのか?身近にあふれる妙に気になる日本語たち。そこには、必ず何らかの戦略が込められている!気鋭の経済学者がゲーム理論を駆使して読み解く、目からウロコのエコノミック・エッセイ。
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