【第23回】 2009年05月20日
なぜ僕たちは刑事裁判に参加するのか?
5月21日から裁判員制度が始まる。基本的には選挙権を持つ国民のすべてが、この制度の対象になる。法務省はこの制度の周知に懸命だけど、その概要がどうもよくわからない。何がわからないのかがわからない。何となく焦点がぼけている感じが、どうしても拭えない。
(1)国民が刑事裁判に参加する制度である。
(2)被告人が有罪か無罪か(被告人が犯罪を行ったことにつき「合理的な疑問を残さない程度の証明」がなされたかどうか)を判断する。
(3)法律に定められた範囲内で、どのような刑罰を宣告するかを決める。
(4)裁判員制度の対象となるのは、殺人罪、強盗致死傷罪、傷害致死罪、現住建造物等放火罪、身代金目的誘拐罪などの重大な犯罪の疑いで起訴された事件とする。
(5)原則として、裁判員6名と裁判官3人が、ひとつの事件を担当する。
選挙人名簿から無作為に選択された国民は、一部の例外(年齢が70歳以上であったり学生であったり、あるいは親族の介護をせねばならないなどの事情がある場合)を除けば、指名を拒否できない。もしも拒否すれば罰則が与えられる。
とここまで書いて、わからないことが何となく見えてきた。要するに根拠だ。あるいは目的や理由。
憲法に定められている国民の三大義務は、納税と勤労と教育だ。教育と勤労の義務には罰則はない。罰則があるのは納税だけ。でも税金を納めないからといってすぐに罰されるわけではない。徴兵制じゃあるまいし、罰則付きの義務など、簡単に定めるべきではない。
ならばなぜ今この国は、これほどに強制的な義務を、国民に負わせねばならないのだろう。よほど何らかの事態が逼迫しているとしか思えない。
冷蔵庫は食品を冷やすために誕生した。犬小屋は犬を入れるために発案された。その色や形がわかっても、用途の目的や理由がわからなければ意味はない。ならば考えなくては。なぜ今、裁判員制度を導入せねばならないのだろう。
最高裁のホームページでは、国民がこの裁判員制度について参加せねばならない理由を、以下のように説明している(太字筆者)。
「これまでの裁判は、検察官や弁護士、裁判官という法律の専門家が中心となって行われてきました。丁寧で慎重な検討がされ、またその結果詳しい判決が書かれることによって高い評価を受けてきたと思っています。
しかし、その反面、専門的な正確さを重視する余り審理や判決が国民にとって理解しにくいものであったり、一部の事件とはいえ、審理に長期間を要する事件があったりして、そのため、刑事裁判は近寄りがたいという印象を与えてきた面もあったと考えられます。また、現在、多くの国では刑事裁判に直接国民が関わる制度が設けられており、国民の司法への理解を深める上で大きな役割を果たしています。
そこで、この度の司法制度改革の中で、国民の司法参加の制度の導入が検討され、裁判官と国民から選ばれた裁判員が、それぞれの知識経験を生かしつつ一緒に判断すること(これを「裁判員と裁判官の協働」と呼んでいます。)により、より国民の理解しやすい裁判を実現することができるとの考えのもとに裁判員制度が提案されたのです。」
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著者プロフィール
- 森達也
(テレビディレクター、映画監督、作家)
1956年生まれ。テレビディレクター、映画監督、作家。ドキュメンタリー 映画『A』『A2』で大きな評価を受ける。著書に『東京番外地』など多数。
この連載について
テレビディレクター、映画監督、作家として活躍中の森達也氏による社会派コラム。社会問題から時事テーマまで、独自の視点で鋭く斬る!
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