ダイヤモンド社の雑誌

野口悠紀雄 未曾有の経済危機を読む

このページを印刷

バックナンバー一覧

最悪の雇用危機が迫るなか、真に必要なのは金融投資ではなく自己への投資

 「経済危機が深刻化すると、ビジネススクールへの入学志望者は、増えるだろうか、減るだろうか、あるいは影響を受けないだろうか?」

 「In Tough Times, M.B.A. Applications May Be an Economic Indicator(不況時にはMBAの志望者数が経済指標になるかもしれない)」というタイトルの「ニューヨーク・タイムズ」の記事は、このようなクイズで始まる。

 この答えは、「増える」である。しかも、顕著に増えるのだ。実際、アメリカのビジネススクールの志願者は、昨年秋の応募期限時において、顕著な増加傾向を見せていると、この記事は伝えている。ビジネススクール応募のために受ける必要があるテストの受験生は、昨年秋には、1年前に比べて11.6%増加した。

 また、「ビジネスウィーク」誌は、2008年におけるビジネススクール応募者数が、07年に比べて64%も増加したと伝えている。これは、Graduate Management Admission Councilが行なった調査に基づくものだ。

 この傾向は、意外なものではない。過去においても、かなり確実な傾向として見られたことだ。だから、大学院関係者は、金融危機の進展で志願者が増えることを予想していたのである。私が知っているあるアメリカのビジネススクールの教授は、志願者の急増で悲鳴をあげている。

 そして、これは、アメリカに限った現象ではない。日本でも同じ現象が見られる。私は早稲田大学のファイナンス研究科という専門職大学院(主として社会人を対象とした大学院)で教えているのだが、志願者数は、やはり昨年の秋から急増している。実はいま入学面接試験の最中なのだが、例年よりも遥かに長い時間を費やさなければならない状態になって、悲鳴をあげているのだ。

 なぜ増えるのか? それは、「機会費用」という経済学の概念を使って簡単に説明できる。

 経済が活況を呈しているときは、仕事をやめて(あるいは仕事の時間を削って)大学院に来ることの犠牲は大変大きい。つまり、大学院で学ぶコスト(機会費用:犠牲にされる所得)が大きい。それに対して不況時には、仕事を削ることの費用が低くなる。だから、大学院に来るのである。これは、私の経験上も明らかなことだ。日本の景気回復が明らかになった2005年、2006年には、われわれの大学院への入学志願者数も減少したのである。

 ただし、私の解釈は、「機会費用」というよりは、もっと積極的なものだ。経済環境が大きく変わるときには、自己投資が必要になる。そして、そのことを若い人たちは直感的に感じ取るのだ。

なぜ金融投資でなく
人的投資なのか?

 昨年12月に刊行した『世界経済危機 日本の罪と罰』(ダイヤモンド社)のなかで、私は、「いまは金融投資をする時代ではない。必要なのは自己投資だ」と書いた。

おすすめ関連記事

Special Topics

バックナンバー

第57回
1人当たり時価総額で10~200倍の開き! 日米企業間のビジネスモデルの圧倒的違い (2010年02月06日)
第56回
対中国貿易の回復は幻想にすぎない、 再び「失われる10年」の入口に立つ日本 (2010年01月30日)
第55回
日米の産業構造に決定的な差をもたらす 「高度な知的プロフェッショナル」の育成 (2010年01月23日)
第54回
経済危機の回復から取り残される日本、 最大の原因は製造業が抱える深刻な後遺症 (2010年01月16日)
第53回
3分の1以下に激減した製造業の利益率 これが日本経済の抱える根本的な問題だ! (2010年01月09日)
第52回
国と企業の恐るべき「戦略の不在」、 2010年度予算案に見る暗澹たる未来 (2010年01月04日)

バックナンバー一覧

Pick Up

山崎元のマルチスコープ

トヨタの記者会見に見る社長の孤独

一連のトヨタ車の不具合の問題で豊田章男社長が初登場した記者会‥

週刊・上杉隆

小沢幹事長問題ではっきりした メディアと国家権力の危険な関係

大久保秘書逮捕されてからの10ヵ月間、記者クラブメディアは検‥

inside

ANAの我慢も限界!撤退を招きかねない 静岡県の航空市場を歪めるJAL優遇策

静岡県によるJAL福岡便への緊急支援策が大きな波紋を呼んでい‥

News&Analysis

デフレでも売れるのは高級チョコばかり!? 百貨店が命運かけるバレンタイン商戦の行方

不況の影響を受け、苦悩が続く百貨店業界。しかし、バレンタイン‥

最新の連載一覧

すべての連載

特集を見る

Diamond Premium 最新記事 無料会員登録すると全文が読めます

Close-Up Enterprise
暗中模索のウィルコム問題 最後のPHS事業者の末路
本荘修二の実践講座! 社員を動かすウェブ
IT革命で崩れたコミュニケーションの 「お作法」を作り直そう!
山崎元のマネー経済の歩き方
大学生に資産運用をどう教えるか
野口悠紀雄 未曾有の経済危機を読む
1人当たり時価総額で10~200倍の開き! 日米企業間のビジネスモデルの圧倒的違い
日本を元気にする企業の条件
神戸のライジングスター! 血液検査でお馴染みのシスメックスが 作り上げた“仕組みビジネス”の凄み
公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略
“トヨタ黄色信号”はリコール前から点滅!? 株価指標でわかる自動車業界の優勝劣敗
IFRS最前線
リースor購入どっちがおトク!? 煩雑化するリース会計攻略法を探る
インターネット上の“不満の声”
企業に向けられたインターネット上の“不満の声”。うまくさばく秘訣は?
DOL編集部のツイッターを開始
最新記事の話題から編集部の日常まで、24時間つぶやきます。フォローよろしくお願いします。

Business information

著者プロフィール

野口悠紀雄
(早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授)

1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。主な著書に『「超」整理法』シリーズ、『資本開国論』『モノづくり幻想が日本経済をダメにする』等がある。 野口悠紀雄ホームページ

------------最新経済データがすぐわかる!------------
『野口悠紀雄 使える!「経済データ」への道』

この連載について

突如として世界中を襲った経済危機。激流に翻弄される日本経済はどうなってしまうのか? なすべき対策はあるのか? 100年に1度の未曾有の事態を冷静に分析し、処方箋を提示する野口悠紀雄の緊急連載!

野口教授が緊急提言!「未曾有の経済危機 克服の処方箋―国、企業、個人がなすべきこと」

【緊急出版!】この危機は、国にとっても個人にとっても真の改革を実現する最後のチャンス! 世界を襲った戦後最大の経済危機。その本質は、相互依存的に膨張した日本の「円安バブル」、アメリカの「住宅バブル」、中国の「改革開放バブル」の連鎖崩壊だった! 1680円(税込)

Recommend 話題の記事

News&Analysis
米国人はなぜトヨタを叩くのか? 日本人が軽視する不信増幅の本当の理由
今週のキーワード 真壁昭夫
「子ども手当」の満額支給に黄信号! 今こそ問う“誇大広告政治”の功罪
日本人が知らないリアル中国ビジネス 江口征男
中国人エリートの年収が日本人を逆転! 札束で顔を叩く「高級人材争奪戦」の内幕
SPORTS セカンド・オピニオン
直前に迫ったバンクーバー五輪が 今イチ盛り上がらない原因
ツイッター+αのつぶやき企業戦略
「つぶやき」で顧客満足度UP!の好循環 デルに学ぶツイッター活用の大原則
元銀行マンの准教授が語る 「腹に落ちる」環境学
高速道路、一部無料化へ――タダより高く、怖いものはない!? 「1000円」と「無料」の大きな違い
野口悠紀雄 未曾有の経済危機を読む
1人当たり時価総額で10~200倍の開き! 日米企業間のビジネスモデルの圧倒的違い
今週の週刊ダイヤモンド ここが見どころ
巷に溢れる悪徳業者を見極めよう! 困らない「葬儀」のイロハを徹底解説
エコカー大戦争!
トヨタや日産の敵?日本企業を惑わす 米新興電気自動車メーカーの本当の実力
はい上がれる人、はい上がれない人――「負け組社員」リベンジの十字路
テレクラ通いで反撃準備? 壮絶ないじめと闘う“反骨の営業マン”

雑誌定期購読のご案内


詳しくはこちら

特大号・特別定価号を含め、1年間(50冊)市価概算34,500円が、定期購読サービスをご利用いただくと25,000円(送料込み)。9,500円、約13冊分お得です。さらに3年購読なら最大49%OFF。


詳しくはこちら

1冊2,000円が、通常3年購読で1,333円(送料込み)。割引率約33%、およそ12冊分もお得です。
特集によっては、品切れも発生します。定期購読なら買い逃しがありません。


詳しくはこちら

年間12冊を定期購読すると、市販価格8,400円が7,150円(税・送料込み)でお得です。お近くに書店がない場合、または売り切れ等による買い逃しがなく、発売日にお手元へ送料無料でお届けします。
※別冊・臨時増刊号は含みません。


詳しくはこちら

偶数月の1日発売(隔月刊)。1年購読(6冊)すると、市販価格 5,880円→4,700円(税・送料込)で、20%の割引!
※別冊・臨時増刊号は含みません。

お知らせ・ご案内

会員専用ページ開始のお知らせ
7月より一部の記事で、無料会員登録した方だけが全文を読める形に変わりました。詳細はこちらをご覧ください。