日本で「ジョブ型雇用」がうまくいかないワケ、米国との決定的な違いとはPhoto:PIXTA

2024年春闘では大企業を中心に賃上げの「満額回答」が相次ぐ一方で、中小企業では「予定なし」の声も多く、賃上げに“温度差がある”のが実態と言えるでしょう。コーポレートファイナンスやベンチャービジネスが専門の保田隆明・慶応義塾大学総合政策学部教授に「中小企業の賃上げや採用の悩み」について、ソフトバンク社長室長をへて英会話スクールを経営する筆者が、話を聞きました。【前中後編の後編】(構成/ライター 正木伸城)

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職務内容があいまいな日本で
ジョブ型雇用の制度だけ導入しても意味がない

三木 前編『「賃上げしたくても決断できない」中小企業の社長がお悩み相談→慶応SFC教授の答えは?』では、「公共調達」を活用し大企業と中小・ベンチャー間の人的交流を活性化することが、結果的に中小企業が賃上げしやすい環境をつくる、という話をしていただきました。いずれにしても日本経済にまだ足りないのが、雇用市場の流動化です。例えばですが、期待されていた「ジョブ型雇用」は、少しずつ浸透していると思いますか?

保田 ジョブ型雇用とは、職務に必要なスキル・経験・資格を持つ人材を採用する雇用方法のことで、職務を限定せずに新人を一括採用するメンバーシップ型雇用と対をなしますが、正直あまりうまく機能していないと思います。

 ジョブ制は海外から入ってきた概念で、それを採用している国や地域は、雇用の流動性がそもそも高い。中編で話題にした「アップorアウト」がスタンダードだという国が多いんです。一方で、アップorアウトがほとんどない日本に「制度だけ」を導入しても、うまくいかないのが現実です。

 米国ではジョブディスクリプション(=担当業務の職務内容を記した文書)が明確です。例えばマクドナルドでは、カウンターの人はカウンターの仕事しかしない。フロアでジュースをこぼしても、間違っても彼らが床を清掃することはないんです。なぜなら、ジョブディスクリプションに書いていないから。一方の日本は、良くも悪くもジョブディスクリプションがあいまいです。