「富裕層」というと、ハイブランドの洋服を着たり、ひんぱんに海外旅行に行ったりと“豪華な暮らし”をしているイメージを持つ人が多いかもしれない。しかし、『元国税専門官がこっそり教える あなたの隣の億万長者』の著者・小林義崇さんによると、「資産を多く持つ人ほど、質素な生活をしている」という。いったいなぜなのだろうか?
そこで今回は、国税局時代の相続税調査で、日本トップクラスの“富裕層のリアル”に触れた小林さんと、『頭のいい人が話す前に考えていること』の著者・安達裕哉さんに、「富裕層のお金の使い方」について尋ねてみた。

【国税OBが明かす】「トップ3.5%の富裕層」だけが知っている“お金の増やし方”ベスト1Photo:Adobe Stock

資産が増えるほど「お金を守る意識」が強まる

――富裕層というと、預貯金だけでなく株や不動産も保有しているイメージがありますが、実際はどうなのでしょうか。

小林義崇(以下、小林) そのイメージ通りです。実際、相続税の申告では、亡くなった時点での財産の内訳をチェックしますが、預貯金しか持っていない例は見たことがありません

 私が国税専門官として相続税調査に携わっていた2000年代は、いまほど投資が一般的ではなかったのですが、そんな中でも富裕層は預金に加えて、株や債券、不動産などに投資していました。

 さらに、資産規模が大きくなるほど、「お金を守る意識」が強くなり、リスクヘッジのために分散保有したり、長期投資に取り組んだりする傾向もありましたね。

――富裕層の人々は、日本だけでなく海外の資産にも積極的に投資していると思います。これも、小林さんの言う通り「リスクヘッジ」という意識の表れなのでしょうか?

小林 そうですね。私が相続税調査をしていた頃から、海外に投資している富裕層は多かったです。やはり、「長期・分散」という投資の成功原則に沿って、リスクを下げながら安定的なリターンを得ようとしているんだと思います。

 また、フリーライターになってから、世界3大投資家の1人であるジム・ロジャーズ氏の書籍プロジェクトに携わった際、「日本の投資家にアドバイスはありますか?」という質問に対して、彼も「いますぐ海外投資しなさい」と述べていました。

 5年先の見通しすら不確実な時代に、日本だけに投資したり、個別株に挑戦したりするリスクは高いと思いますが、全世界に分散するのであれば、ある程度のリターンが期待できそうですよね。

「世界全体が成長するか」を考えると見通しがクリアになる

――安達さんも、世界への分散投資に賛成ですか?

安達裕哉(以下、安達) そうですね。仕事をしながら個別企業の研究をするのは骨が折れますし、将来どの業界の経済規模が大きくなるかを厳密に分析するのは難しいです。

 そんな中、私でも唯一予想がつくのが、「今後も世界経済が発展していくだろう」という未来像です。景気の浮き沈みが多少あったとしても、いまよりも20~30年後の方が、世界全体としては着実に豊かになっているはずです。

 なので、長期投資という観点では、個別企業あるいは特定の業界ではなく、全世界に分散してお金を振り分けるのが、限られた時間での「ベストな選択」だと考えています。

――たしかに、特定の国や業界の動向よりも、世界経済が全体として成長するか衰退するかという二択であれば、見通しがクリアになりますね。実際、安達さんはそのように投資しているんですか?

安達 いまは全世界への分散投資をしていますが、リーマンショック時には持っていた投資信託が大暴落し、そのタイミングで損切りしたので痛い目に遭いました。当時は、「投資なんてもう二度とやらないぞ」という思いでしたね。

 ですが、その後何年か経ってから、投資に詳しい知人にこの話をしたところ、「売らないで持ち続けていたら、ものすごい利益になったのに」と諭されました。それを聞いて後悔の念が生じたので、投資にもう一度挑戦する意欲がわいたんです。

 再挑戦にあたっては、「時間的な分散と、投資対象の分散という『2つの分散』を実践して、コストの安いインデックスに投資せよ」という『ウォール街のランダム・ウォーカー』のメッセージを思考の軸にしながら、投資に取り組んでいます。

小林 私の場合、国税専門官時代は、投資には一切手をつけませんでした。というのも、相続税調査の中で投資に成功している富裕層を知った一方で、確定申告の相談対応をしたときに短期売買で大損をした人を数多く見て、怖気づいたからです。当時は何が投資の勝敗を分けるのかわかりませんでした。

 その後ライターになってからは、個人投資家や資産運用のプロから話を聞くうちに知識がつき、「長期・分散・積立」で資産をコツコツ築いていくことが王道であると理解できたので、6年ほどコツコツと投資信託に積立投資をしています。おかげさまで、いまのところ評価益はプラスになっています。

「投資信託」は、1人ひとりからの少額の拠出を、金融機関がまとめて大きな資金にして、運用のプロが分散投資をするという仕組みですから、「投資はやりたいけど自分で投資先を厳選するのは面倒」という人には打ってつけですね。

トップ3.5%の富裕層は「ムダなお金は1円たりとも使わない」

――最後に、読者へのメッセージをお願いします。

小林 いわゆる富裕層は、高度なテクニックを駆使して資産を築いたり、運用したりしているわけではなく、「ムダなお金は1円たりとも使わない」という非常にシンプルな考え方のもと、日常生活を送っています。

 たとえば、国が用意している非課税制度のような「おトク」な仕組みや、節税のコツをきっちりフル活用するなど、皆さんが思っているよりも「かなり質素」な生活をしているのが“リアルな実態”です。

『あなたの隣の億万長者』でも書きましたが、「億レベルの資産を持つ人≒日本のトップ3.5%の富裕層」も、元はといえば普通の人たち。そこから、仕事・生活・投資などにおいて、誰もができる地道な行動を積み重ねて、資産を築いたケースが大半なんです。

 そういう意味で、私たちが富裕層になれるかどうかは、自分自身の行動にかかっています。富裕層の習慣のうち、真似できるものは積極的に自分の生活に取り入れて、より豊かな未来を実現していただければと思います。

【国税OBが明かす】「トップ3.5%の富裕層」だけが知っている“お金の増やし方”ベスト1著:小林義崇 定価:1650円(税込)