「17万人の命」を救った医療機器が町工場から誕生したワケPhoto:PIXTA

「子どもが大きな障害や病気を持って生まれた時、親や家族の前には2種類の選択がある。人は皆いずれ等しく死に行くのだから、その障害も仕方のない運命だと受け入れるか、あるいは運命に逆らい、必要であれば神の領域にも踏み込んで闘うか」――。『アトムの心臓 「ディア・ファミリー」23年間の記録 』のあとがきで私がつづった文章だ。娘の命を救うため、不可能に挑んだ家族の物語を紹介しよう。(ノンフィクション作家 清武英利)

医療とは無縁の夫婦が医療機器を作り上げた

「人は自分で考えているよりも、10倍の力を持っている」

 こう話すのは、日本初の「IABPバルーンカテーテル」を開発した筒井宣政さんである。彼は、愛知県春日井市田楽町にある東海メディカルプロダクツの創業者であり、私の近著『アトムの心臓 「ディア・ファミリー」23年間の記録 』(文春文庫)の主人公だ。

 私は23年前から、筒井さんのカテーテルが苦心の末に生み出された補助循環装置であることを知ってはいたが、口下手な彼から、「10倍の力」という信条を聞かされた時、ちょっと大げさではないか、という印象を抱いた。

 私自身も、読売新聞の記者から読売巨人軍の球団経営、そして読売グループと決別してノンフィクション作家と、3つの職を渡り歩いている。今は3つ目の人生を生きていることになる。

 人に言えない苦労や屈辱も味わったが、それにしても私の3つの職にはつながりがある。振り返れば、若い頃に考えていたよりは、2倍程度の潜在力を自分に見出した、というところだ。10倍にはほど遠い。

 ところが、私は筒井さんと家族の開発物語の裏付けに、東京女子医大付属病院や同大先端生命医科学研究所、昭和大学病院などを回っているうちに、少しずつ「10倍」の言葉が重みを増すのを感じるようになった。

 高名な研究者や医師たちは、医療とは無縁の筒井さん夫婦がイチからこの医療機器を作り上げたことを振り返って、称賛の言葉を惜しまなかった。

 そして、『アトムの心臓』を書き終えた時、彼と家族の長い苦闘が言葉として発酵に至り、その結晶として彼に語らせたのだろう、と思うようになった。