いま、イェール大学の学生たちがこぞって詰めかけ、夢中で学んでいる一つの講義がある。その名も「シンキング(Thinking)」。AIとは異なる「人間の思考」ならではの特性を存分に学べる「思考教室」だ。このたびその内容をもとにまとめた書籍、『イェール大学集中講義 思考の穴――わかっていても間違える全人類のための思考法』が刊行された。世界トップクラスの知的エリートたちが、理性の「穴」を埋めるために殺到するその内容とは? 同書から特別に一部を公開する。(初出:2023年10月7日)

相手にしてはいけない「絶対に反省しない人」の特徴【書籍オンライン編集部セレクション】Photo: Adobe Stock

すべての問題を「人のせい」にする

 すでに信じていることがあるせいで、現実に対してバイアスのかかった解釈をしてしまうというのはよくある話だ。(中略)

 残念ながら、反証を突きつけられても、自分や周囲に甚大な被害が及ぶ可能性があっても、バイアスのかかった解釈に固執する例は実に多い。

 たとえば、自分の問題をきまってまわりのせいにする人が、あなたの身近にも、少なくとも一人はいるのではないだろうか。

 その人は会議に遅刻すれば、道が混んでいたせいにする。だが、その道路は毎日同じ時間帯に必ず渋滞する。

 その人の言葉で誰かが傷つけば、謝罪の言葉は「そんなふうに受け取られるなんて思わなかった」だ。

 自分はつねに正しく、悪いのはつねに自分以外の誰かだと信じていれば、傷つきやすいエゴは守れるかもしれないが、学習し成長する機会は奪われ、固い絆や健全な人間関係は生まれない。

すべてを「自分のせい」にしてしまう人もいる

 反対に、何でも自分のせいにする人もいる。ほめられれば疑念が頭をよぎり(「この人は誰でもほめるに違いない」)、何かを成し遂げた自分の技能は軽視し(「運がよかっただけ」)、これ以上ないほど建設的なフィードバックでも、指摘されたことを増幅して自分の欠点として受け止める(「私は役立たずだ」)

 そういうタイプの人はおそらく、インポスター症候群〔注:詐欺師症候群。つねに自分を過小評価してしまう心理傾向〕に苛まれているのだろう。その心理に陥ると、自分の力を信じられず、その思いに反する証拠がいくら新たに出現しても、自分に対してすでに抱いているネガティブな意見は絶対に変わらない

 うつに苛まれている人は、とりわけ自分のためにならない偏った解釈に陥りやすい。

 たとえば、エラが友人のレスに「金曜の夜は何か予定ある?」というメッセージを送ったとしよう。4分後、メッセージのステータスが「送信済み」から「既読」に変わったが、レスから返事はない。そして2時間がすぎた。

 レスが返信しない理由なら、もちろんいくらでもありうる。

 メッセージを読んだ直後に耐え難いほどつまらない会議が始まって、エラからのメッセージのことを忘れたのかもしれないし、読んだ直後にラーメンの大きな器にスマホを落としたのかもしれない。あるいは、レスの頭に鳥がフンをして、抗菌シャンプーで頭を洗い続けているのかもしれない。

 レスがどのような状況にあるかはまったくわからないにもかかわらず、自分に自信が持てないエラは、レスはもう自分と友人でいたくないのだと結論づける

(本稿は書籍『イェール大学集中講義 思考の穴――わかっていても間違える全人類のための思考法』から一部を抜粋して掲載しています)