「ものすごく不安でした。どれほどの効果があるのか、まったく未知数でしたから」

 大手スポーツブランド、リーボックのスポーツウエア「TAIKAN」のプロモーション動画を作成したサーチアンドサーチ・ファロンの植村啓一クリエイティブディレクターは、今年4月1日にスタートし大きな注目を浴びた“仕掛け”を振り返る。

 “仕掛け”とは、4月1日のエイプリルフールとかけて偽の号外新聞を発行し、東京と大阪の10ヵ所で配布。その内容は「70年ぶりとなる続篇 ラヂオ体操第4制定」というもの。同時にYouTubeにラヂオ体操第4をテーマにした「TAIKAN」のプロモーション動画を公開するというものだった。

 もちろん、ラヂオ体操第4なんてウソである。誰もが知っているラヂオ体操を題材にして話題性を持たせようとしたのだ。

 2009年12月に発売されたTAIKANは、11月に新聞広告を掲載して認知の向上を目指したがほとんど効果は得られていなかった。追加の予算を投下して4大マスメディアに広告を打つことも検討されたが、それには莫大な金額が必要になるし、そもそも新聞広告で失敗している。同じ轍を踏むわけにはいかなかった。そこで出された結論が口コミで話題を巻き起こすというものだった。

「おもしろい動画、見てみたいと思う動画にしようとだけ考えていた。それにはとにかく“広告くささ”をなくすことだと思っていた」と植村氏は語る。そのため、リーボックやTAIKANのロゴをどのように出すかという点は大きな議論になった。まったく入れないという案もあったが、結局、最後に一瞬だけTAIKANのロゴを見せることで落ち着いた。また、肝心の動画はラヂオ体操のイメージを覆す難易度の高い体操にした。

 結果は大成功。実際に動画を見た視聴者のコメントの中には「広告だったのか!やられた!」というものもあった。「いまやDVDレコーダー自体にテレビCMを飛ばす機能がついていて、テレビCMは見ないのが普通の時代。そんななかでプロモーションと気づかず最後まで動画を見て、TAIKANのロゴが出てきてハッとする。思惑どおりだった」(植村氏)。

 仕掛け初日の4月1日、動画の再生回数は10万回に上った。その後セッション数は最大で通常の7.6倍、TAIKANのホームページのページビューも最大で通常の3.4倍にもなった。

 テレビや雑誌、さまざまなホームページで取り上げられ、広告換算すると6億円程度と試算された。この額はリーボックの年間広告費を軽く超える額だという。加えて仕掛けに費やした額は通常のプロモーションの3分の1以下。費用対効果は従来とは比べものにならないほど高かった。