現代のような変化の激しい時代においては、管理型や問題解決型のリーダーにはトップは務まらない。自身の社長時代も「失敗8割、成功2割だった」と振り返る安部修仁・吉野家ホールディングス会長が語る、現代のトップに必要な資質とは?(構成/フリージャーナリスト 室谷明津子)

管理職が心を砕くべき
もう1つの「目標」とは?

 現場の社員たちが“目の前の仕事の繰り返し”を疑問なく行うようになったら、その組織は「大企業病」に侵され始めている。前回(記事はこちら)は、じわじわと組織をダメにする大企業病の弊害についてお話ししました。では、社員1人1人がベンチャー精神を失わず、目標に挑戦しながら働く組織を作るには、どうすればいいのでしょうか。

「失敗8割、成功2割」それでも吉野家が挑戦を止めなかった理由毎日のルーティンワークに埋没せず、常に変化をするよう促すのはリーダーの仕事。小さな成功体験の積み重ねが、社員たちのヤル気を引き出す。さらに重要なのはリーダーの資質。現代における、リーダーに求められる資質とは?(写真はイメージです)

 人間はもともと、安定を好む生き物です。

 向上心の強いごく一部の人を除いては、放っておくと変化を避け、“目の前の仕事の繰り返し”を続けようとします。そうならないように変化を促すのは、リーダーの仕事です。

 ある程度の規模になった組織は、ピラミッド型の構造になっています。経営者が会社全体の方向性を示し、それを達成するために必要な目標を各現場に落とし込んでいく。細分化された目標を現場の管理職が把握し、社員を監督しながら、日々の事業活動の中で実行していきます。

 ここで大事なのが、上から示された「定量的な目標」(売り上げなどの数字目標)と同時に、現場の状況を把握し、より良い変化を生むための「定性的な目標」(数字で表せない物事の性質を加味した目標)を、中間管理職が自ら考え出すことができるかどうかという点です。もちろん、経営目標を達成するための現場の活動が最優先されるべきですが、それに加えて、現場ごとの課題を見つけて実践することも、管理職にとって大切な役割です。

「定性的な目標」といってもピンとこないと思うので、私が吉野家の店長時代に行ってきたことを例として紹介しながら、説明していきましょう。