共和・民主合わせて1億ドルを超えるネガティブ広告は、米大統領選の行方を左右する重要な要素である。過去2回の選挙では共和党候補の巧みな中傷戦術の前に、民主党候補は敗れた。今回も民主党は押され気味。オバマ氏は主導権を取れないでいる。(聞き手/ジャーナリスト 矢部武)

ダレル・ウェスト(Darrell M. West)
ブルッキングズ研究所 ダレル・ウェスト副所長

 大統領選の本選が始まると、民主・共和両候補はテレビ広告に莫大な資金を投じる。それは相手候補への人格攻撃を含め、テレビ広告が選挙結果に大きな影響を与えることをよく認識しているからだ。

 オバマ候補が中東・欧州を訪問していた7月後半、マケイン陣営はパリス・ヒルトンやブリトニー・スピアーズの映像を使い、「オバマ氏は世界のセレブ(有名人)だけれど、一国のリーダーになる用意はできているの?」と揶揄する中傷広告を流した。「セレブのように振る舞っているが、肝心の中身はどうなの?」と疑問を投げかけた広告は大きな反響を呼び、これをきっかけにマケイン候補の支持率は上がり始めた。

 さらに同陣営はクリントン上院議員やバイデン副大統領候補が予備選で、「オバマ氏は大統領になる用意ができていない」と批判した映像を使い、攻撃を強めている。

 一般的に有権者は相手候補の人格攻撃よりも政策に対する攻撃(批判)に同感する傾向があり、人格攻撃だけだと逆効果になることもある。しかし、人格攻撃と政策・政治姿勢への批判をうまく組み合わせながら、巧妙に相手候補の信頼性を傷つける広告は効果があり、これは共和党の得意とするところだ。

 2000年には優勢だったアル・ゴア民主党候補を「増税賛成で税金を使いまくるリベラル」と巧みに攻撃し、逆転勝利した。2004年のジョン・ケリー候補も共和党の中傷広告にやられたようなものだ。ケリー氏はベトナム戦争で敵兵と勇敢に戦って味方兵士を救出したとして、勲章を授与された。しかし、共和党側は退役軍人の証言を使ってその勇敢な行為に疑問を呈し、「軍歴虚偽の疑いがある。それはケリー氏の政治姿勢にも現れており、一国のリーダーとしてふさわしくない」と攻撃した。

 ケリー候補はすぐに反撃しなかったため、有権者の間に疑問が広がり、支持を落とした。中傷攻撃を受けたらすばやく対応することが重要であり、今回オバマ候補は過去の民主党の失敗を教訓にしているようだ。