「130万円の壁」放置が若者を下流老人予備軍にする

 前回は、10月から短時間労働者への社会保険の適用が拡大され、「パート主婦の130万円の壁」が見直されることをお伝えした。

 短時間労働者の社会保険の適用要件が、130万円以上になったのは1993年4月。その後、経済環境も、労働環境も大きく変わり、いまや全労働者の3分の1がパートや派遣社員などの非正規雇用という状態になっている。

 そのため、年収要件を引き下げ、社会保険に加入できる短時間労働者を増やそうという動きは、これまで何度もあった。ところが、この問題は長く放置され続け、今回、実に23年6ヵ月ぶりの見直しとなった。

 なぜ、短時間労働者の社会保険の適用拡大は、長年、見送られてきたのか。今回は、社会保険の適用の壁の歴史を振り返りながら、あるべき社会保障の姿を考えてみたい。

短時間労働者の適用基準
23年6ヵ月ぶりの見直し

 日本では、誰もがなんらかの健康保険に加入することが義務付けられており、おもに、会社員は勤務先の健康保険、公務員は共済組合、自営業は国民健康保険など、職業に応じて加入先が決まっている。

 会社員と公務員の制度には、その配偶者や子ども、親などが、保険料の負担なしで医療給付を受けられる「被扶養者」という制度が設けられている。

 健康保険法で決められた被扶養者の要件は、「健康保険の加入者の収入で生活している三親等以内の親族かどうか」「同居しているかどうか」の2点。年収要件などは、とくに明記されていない。

 そのため、1970年代半ばまでは、パートなどで働く妻が、夫の健康保険の被扶養者になれるかどうかは、それぞれの健保組合で独自に判断していたようだ。しかし、パート労働者が増え、国の基準が作られるようになった。

 1977年、「収入がある者についての被扶養者認定について」という厚生省(当時)の通達(昭和52年4月6日)が出され、被扶養者の年収は70万円未満、加入者の年収の2分の1未満と決められた(ただし、2分の1以上でも、世帯収入を総合的に判断して決められることもある)。

 70万円の根拠は、所得税の控除額に連動するもので、当時の妻本人の給与所得者控除(50万円)と夫の配偶者控除(20万円)の合計だ。その後、税制の変更とともに、被扶養者の年収要件は、1981年4月に80万円、1984年4月に90万円と引き上げられた。

 年収要件の決め方が変わったのが1987年。パートで働く主婦が増えるなかで、妻を扶養から外さないようにするために、所得税との連動を中止。パート収入の伸びに応じて改定されることになった。