菅直人内閣の支持率が、発足直後の60%台、参院選前の「消費税発言」で40%台、民主党総裁選の勝利で再び60%台、そして危険水域の20%台と、乱高下を繰り返している。小沢一郎民主党元幹事長の国会招致の問題、環太平洋経済連携協定(TPP)参加問題、尖閣列島・北方領土問題への政府の対応と尖閣ビデオ漏えい問題への批判、柳田法相の失言による辞任、補正予算案の審議の遅れ、仙谷由人官房長官と馬淵澄夫国交相の問責決議案可決など、さまざまな問題に直面し、菅内閣の国会運営は窮地に陥っている。

内閣支持率の乱高下は、
政治を信頼したいという願望の表れ

 この内閣支持率の乱高下は菅内閣だけではなく、安倍・福田・麻生・鳩山の歴代内閣を散々悩ませ、短命政権に終わらせた。政治学者・行政学者の多くは、支持率乱高下の背景には国民の「政治不信」があるとほぼ共通の認識を持っているようだ。そして、政治が「信頼」を取り戻すことが重要であると主張し、「信頼できる政治をどう再構築するか」を、政治学・行政学が取り組むべき喫緊の課題であると考えている。

 しかし今回は、この政治学・行政学の「共通認識」に疑問を呈してみたい。政治が「信頼」を取り戻そうとすることは、本当の政治の安定にはつながらないと考え、実は政治には「信頼」など必要ないという主張を展開したい。国民は、政治に対する「不信感」を単純に持っているのではなく、むしろ政治を「信頼」したいという願望を強く持ちすぎているように思える。そして、それが裏切られたと感じた時の「過剰反応」によって、政治が不安定に陥っているのではないか。

 このことを端的に示すのが、内閣支持率の「乱高下」なのだ。近年、新しい内閣が誕生すると、支持率が50%以上に跳ね上がるようになった。いわゆる「ご祝儀相場」と呼ばれるが、これは国民が新しい首相に強い指導力を期待したい、言い換えれば首相を「信頼」したいという強い願望を示しているからだ。

 しかし、この強い願望は首相に対するある種の「幻想」に膨らんでいく。例えば、安倍首相待望論、政権交代直後の鳩山首相の高支持率などだが、その「幻想」が裏切られた時には、強烈な反動となって内閣に跳ね返ってくる。政治が困難に直面するのは常であるが、その1つ1つに国民が「過剰反応」し、支持率が急落することで、内閣は短期間で危機に陥っている。