世の中には、ビジネスやリーダーシップに役立つヒントがたくさん盛り込まれた書籍や記事があふれています。もちろん、ヒントは役立ちますが、だからといってヒントを丸暗記してそれで人が動くと思い、朝礼や会議の席で部下に「お客さまの喜ぶ行動をする」「プロジェクトを成功させる」「営業成績をあげろ」と檄を飛ばしても、部下は腹の中で「お前こそ頑張れよ」と思うだけで、本気になって動くことはありません。

部下がついてくるリーダーになるために必要な「2つの覚悟」小宮一慶
小宮コンサルタンツ代表

 なぜ部下は本気になって動かないのか。それは経営者に二つの「覚悟」が欠けているからです。

先頭に立って行動する覚悟はあるか?

 一つ目は「指揮官先頭」を実践する覚悟です。これは、旧日本海軍のエリートを養成する海軍兵学校で厳しく教えられた精神です。その精神こそ経営者に必要なのです。先頭に立って行動する覚悟がなければ部下は動かないし、ついてきません。

 ビジネス書や記事を読んで、ノウハウや言葉だけで人を動かそう考える経営者は、部下を率いる「リーダー」ではく、部下に教えるだけに「ティーチャー」です。リーダーとティーチャーは違うのです

 経営コンサルタントの大先輩・一倉定さんは「評論家社長は会社をつぶす」とおっしゃっていました。ティーチャーも評論家も同じことで、自社の経営を評論したり、机上で学んだことを右から左に話しているようでは、部下はついてきません。

前回のこの連載で紹介した連合艦隊司令長官の山本五十六の言葉、「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」では、「やってみせ」というのが最初にきます。ティーチャーは自分はやらずに、「言って聞かせて」から始めるので、部下が動かないのです。

 ここで誤解してほしくないのですが、指揮官先頭とは部下がやるべき仕事をすべてやれということではありません。

 部下の仕事を経営者がすべてやるのなら、そもそも部下は必要ありません。そうではなくて、たとえば「お客さま第一」などの、会社の大きな方針、あるいはビジョンや理念に関わることを率先して行い見せる覚悟を持つということです。

 よく「背中を見せる」という言い方をしますが、経営者が先頭に立って行動していれば、いやでも部下に背中を見せることになるわけです。