この連載の今年最初の論考は、国民が自ら「新しい日本の国家戦略」を構想する必要性を訴えたものであった(第40回を参照のこと)。年末を迎え、この年頭の主張がもう一度繰り返されるべき状況となった。領土問題、資源外交、国際通貨体制、自由貿易体制など日本の国家戦略が問われる局面が増えている。 

 今こそ、日本の国家戦略を語るべきだと敢えて問いたい。これ以上、重箱の隅をつつくように政治家を批判し続けても、その先にはなにもない。今回は「英米系地政学」を基に、日本の国家戦略を構想する。

海洋国家の視点に立つ
「英米系地政学」とは

 地政学とは、地理的な環境が国家に与える政治的、軍事的な影響を巨視的な視点で研究するものだ。「英米系地政学」は、英国の地理学者ハルフォード・マッキンダー卿と米国の政治学者ニコラス・スパイクマンが示した、海洋国家(シーパワー)がユーラシア大陸中央部(ハートランド)に位置する大陸国家(ランドパワー)の拡大を抑止するための理論である。

 具体的には、ハートランドの周縁に位置する地域を「リムランド」と名付け、ランドパワーがリムランドを統合すると、シーパワーにとって巨大な脅威となると警告する。逆にシーパワーは、リムランドを形成する国々と共同して、ハートランド勢力を包囲し、その拡大を抑止すべしと強調する。

 この理論は、英米に強い影響を与えてきた。東西冷戦期には「フランス+英国+米国の三段構え戦法(カウンターハートランド戦略)」が採用された。また、冷戦終結後の東欧・中央アジアのロシアからの分断と民主化は、英米がこの理論を採用した成果だ。

英米系地政学を使って
日本の国家戦略を考える

 基本的に地政学は、国際関係を地理的要因、軍事的要因のみで分析する。しかし近年、経済、通商、投資関係が国際関係を規定する重要な要素となっている。そこで今回は、主に経済的要因から日本の国家戦略を構想する。