「簿記、会計が得意だから経理」は本当に正しいのか

 「お!簿記1級の試験どうだった?!」

 授業でのパフォーマンスを見ても、彼なら受かるだろうと思っていたので、「受かりました!」なんて元気な返事が返ってくると勝手に想像していたが、全く元気がない。ただ、元気がないのは、簿記の試験のせいではなく(試験結果はまだだそうだ)、やはり“シューカツ”だった。

 「経理を志望しようと思っているのですが、経理として採用をしてくれる企業ってほとんどないですよね? 大体総合職として採用されるので、最初は営業とかですよね?」
 「そりゃ、そうだ。しかも、就職後40年間ずっと経理マンで行き通す可能性は少ないんじゃない?多くの日本企業では部署異動があるしね」
 「そうですよねえ…(ため息)」

学生にとっての営業職は、「押しこみ販売」のイメージ?

 前期に彼が一度研究室にやってきたときに、簿記1級を受けることは聞いていたため、この学生が比較的簿記や会計が好きであることは明らかだ。

 「でもさあ、なんで経理がいいのさ?」
 「いや、だって、オレ初対面の人と話すのが苦手なので、営業とかは向かないかな、と思って…」
 「“初対面”じゃなきゃ大丈夫なの?」
 「ええ、まあ」

 彼が比較的シャイな学生であることは、私も前期の授業を通じて知っている。ただ、授業中に当てて質問したときのやり取りや、提出される課題からは彼の意思を感じることができた。伝えたいことがあれば、上手ではなくとも、それは相手に伝わる。

 「じゃ、営業でいいじゃん!」

 彼はキョトンとしている。

 「だってさ、初対面の営業で相手がモノやサービスを買ってくれることなんてほとんどないよ。大体そんな製品やサービスでも、10回ぐらい通ってやっと契約だよ。だから、2回目以降なら気がほぐれるのなら、営業でも大丈夫でしょ」
 「…あ、そっか」
 「しかもさ、モノやサービスは均一化が進んでいるから、誰から買っても同じだよね。それなら、この人こそ!という人から買いたいんじゃない? そうなれば、スルメみたいに噛めば噛むほどに味が出る人間にもチャンス大きいじゃん」
 「なるほど~!」