初来日が話題のドゥテルテ・フィリピン大統領。想像を超える行動と発言で世界の注目を集めているが、その混乱はフィリピンのお役所仕事にも及び、退職者ビザの取得手続きにも影響が出ているという。元・フィリピン退職庁(PRA)ジャパンデスクで、現在は「退職者のためのなんでも相談所」を運営する、フィリピン在住19年の志賀さんの最新レポート。
フィリピンでは今、ドゥテルテ大統領旋風が巻き起こっている。麻薬撲滅のキャンペーンで2000人以上の麻薬密売人が殺され、60万人の麻薬常習者が自首するという前代未聞の状況となっている。
これに対してロブレド副大統領をはじめとする政治家や国連が超法規的殺人を非難しているが、大統領は国連の脱退を示唆するなど強気の構えだ。さらにアキノ前大統領が任命した6000人の高級公務員に辞職を勧告し、国家警察幹部でさえも麻薬密売関与で実名をあげて告発、前司法長官デリマ現上院議員を不倫と麻薬密売関与で槍玉に挙げている。
こんな状況に政敵、麻薬密売関係者、過激派組織アブサヤフなどの反政府勢力が大統領を標的に巻き返しをはかることは容易に想像でき、大統領が命を張って戦っていることに庶民は拍手喝采だ。一方、9月2日にはダバオでの爆弾事件が発生するなど、反大統領勢力が動き始め、大統領も就任4カ月目で正念場を迎えているといえる。

さらに人権侵害とのオバマ大統領の懸念に対して、ドゥテルテ大統領はこともあろうに天下のアメリカ大統領を痛烈に批判した。彼の発言の中身はスペインそしてアメリカの植民地時代にまでさかのぼり、積年の恨みが込められていた。そして、フィリピンでは最高級の罵倒語である「Putan Ina mo(お前の母さんは売春婦)」という言葉まで発せられた。これに対し記者団からは小さな拍手が起こったそうだが、ここまで発言できる政治家は世界でもまれだろう。
国内では公務員に対しても、「役所の手続きを早め、庶民に行列をつくらせるな」と激を飛ばしているそうだが、現実は役所の手続きの滞りが発生している。下記は、最近の役所の対応に苦慮させられている実例だ。
ビザ発行から相続税までどんどん面倒になっている
そもそもフィリピンの役人は、ミスを犯さず無難に仕事をこなせばよく、庶民へのサービス向上などは興味の対象外だ(興味は賄賂くらいのもの)。そのため、大統領の号令の真意はどこかへ飛んでいって、ただただ非難の矛先が自分に向かないことだけを考えて、とりあえず行動しているのだ(よく言えば、襟を正すということになるのだろうが)。
●実例1;退職ビザの発行が遅れている
最近の事例では、退職ビザの発行が、実に5週間たってもまだ目処が立っていない。昨年までは2週間(10営業日)だったものが今年に入って3~4週間(15~20営業日)となり、それも守ることができなくなっている。
その原因は「ビザ発行を承認する入管のトップが、退職ビザに限らずすべてのビザを1枚1枚、1人で吟味して多大な時間がかかっているから」というのがPRA(フィリピン退職者庁・100%政府が株式を保有する政府管理の法人)の説明だ。たしかに間違ったことはしていないが、申請者の都合はかやの外、PRAもあきらめの境地だ。
●実例2;SPA(委任状)の手続きが厳格になった
外国で作成されたすべての書類は、その国の外務省で印章確認を行ない、フィリピン大使館で認証しなければ入管では受け付けられないというのが原則だ。退職ビザの申請に必要な無犯罪証明書にしてもしかりだが、これまではこの認証手続きをフィリピンでも行なうことが可能で、まず日本大使館で印章確認を行ない、その後、比外務省(DFA)で認証してもらえばよかった。
この代行手続きにはSPA(委任状)が必要だが、従来は形だけのもので、日本でサインしてもらったものをフィリピンで公証するという方法で通っていた。しかし今般、このSPAに日本でサインしたのであれば、日本の公証役場で公証し、(日本の)外務省とフィリピン大使館で認証してこいということになった。
この認証作業が面倒だからフィリピンでやろうというのに、SPAの認証を日本でやるくらいなら、無犯罪証明書を日本で認証するのと手間は変わらない。さらに、委任者がフィリピンにいるというなら、パスポートに押された入国印のページのコピーを提出せよとのことで、ごまかしが効かない。これはまったく正論だが、退職者のスムーズな退職ビザ発行には逆風となっている。
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