小売事業者は、返品条件をどう設計すれば購入刺激と返品抑制を両立できるのか。6パターンの方法論を紹介。


 小売業における返品制度は、顧客のリスクを軽減するため、そして購入を刺激するために設けられている。

 購入後に消費者の気が変われば製品は突き返され、そのコストはたいてい売り手が負担する。一説によると、返品率が20%を超えると、売り手の営業利益がゼロになってしまうこともある。したがって、顧客の需要喚起につながるとはいえ、寛大な返品条件を設けるか否かについては慎重にならざるをえない。実際、多くの小売業者は「抑制と均衡」を考慮し、寛大さと制約の両方を含む返品条件を選んでいる。

 筆者らは最近、『ジャーナル・オブ・リテーリング』誌に発表した論文において、返品条件の寛大度を左右する5つの代表的な要因を挙げている(英語論文)。

・金銭的な寛大度:購入価格のうちいくら返金するか

・時間的な寛大度:どの程度の期間、返品を受け付けるか

・手順の寛大度:消費者は返品にどの程度の手間を要するか

・交換の寛大度:返金をポイント(ストアクレジット)で行うか、現金で行うか

・適用範囲の寛大度:返品できる製品の範囲、たとえば値引き商品を含めるか否か

 この研究によって明らかになった朗報がある。それは寛大な返品条件を設けることは、返品を増やす以上に、購入数量を増やす効果が期待できるということだ。

 しかしながら、返品条件を緩めて販売数が増えれば、その分返品が増えるのも事実であり、具体的な影響は条件によって異なってくる。返品制度には、返品よりも購入に影響を与える要素と、購入よりも返品に影響を与える要素があるのだ。

 研究から、消費者の購入を促すうえでは次の2つが最も効果的であることがわかった。「製品購入額を全額返金する」こと(金銭的に寛大)、そして「返品方法を簡単にする」こと(手順が寛大)である。

 一方、返品の数を減らすことが目的であれば、「返品受け入れの期間を長くする」こと、そして「値引き商品の返品は受け付けない」ことのほうが効果的である。また、顧客への返金は通常、全額ではないケースが多い。このため、「ポイントで全額返金」のほうが、「現金で減額返金」よりも返品件数が多くなる。

 では現実の小売業者は、実際にどんな返品制度を採用しているのだろうか。

 筆者らはこの点について調べるために、返品条件をオンラインで公開している米国小売業79社を分析した。その結果、最もよく見られる制約は、金銭に関するものであった。すなわち、返金する金額に制限を設けることである。2番目に多かったのは手順面の要求、たとえば顧客に領収書の保存を求める、返品のための書式に記入を求めるなどだった。

 返品を受け付ける期間は、平均で57日間。返品手数料(顧客が受け取る返金額に対する手数料の割合)は、平均で14%だ。また、調査した企業の93%は送料の返金を行っていなかった。最後に、耐久財を販売している事業者は、非耐久財を扱う事業者と比べ、「金銭面」と「手順」の制約がより強いことがわかった。