「幸せってなんだろう?」そんな誰もが一度は抱く素朴な疑問を、国家レベルで考えなければいけない時代が訪れた。長引く不況や就職難など、社会全体が閉塞感で覆われている現在、「自分は不幸だ」と考える人が急増している。自殺者数も相変わらず3万人台と、高水準で推移している状況だ。こうした現状に鑑み、政府は昨年末に「新しい成長」の指標である「幸福度」についての研究会を立ち上げた。今後求められるのは、経済中心主義からのパラダイムシフトが起ころうとしている日本を力強く生き抜く「低成長時代の幸福学」である。しかし日本人は、世界でも指折りの豊かな国に住んでいながら、幸せを実感できない国民だと言える。日本人の心を豊かにすることは、本当に可能だろうか?(取材・文/プレスラボ・宮崎智之)

平均志向と上昇志向がせめぎ合う
ストレスフルな現代の日本社会

 6割5分――。これが現代日本の「幸福度」だ。

 2009年度の『国民生活選好度調査』(内閣府)では、国民に10点満点で「幸福度」を聞いたアンケート調査に対して、平均で6.5点という結果が出た。この方式は主観的なデータを採取するものであり、答えた人のその日の体調や機嫌などによって大きく左右されてしまう難点がある。

 しかしながら、0点(とても不幸)や10点(とても幸せ)という両極端ではなく、平均の5点を基軸に物事を捉えがちな日本人の国民性を考えると、意外と現代社会の空気を反映した数字だと言えるかもしれない。

 「5点を切ると不幸だという気がするので、6点ぐらいではないでしょうか」

 こう話すのは、医療系ソフト会社で営業マンとして働くAさん(男性/29歳)。四年制大学の経済学部を卒業し、給料は人並み。両親も健在で、どちらかというと裕福な家庭で育った。いわゆるロスジェネ(ロストジェネレーション)の最終世代だが、正社員の職を得て働いている。悩みといえば「彼女がいない」くらいだ。