トランプが米軍を撤退させても日本の防衛に穴は開かない米軍撤退は日本にとってメリットが大きい(写真は普天間基地)

 11月8日の米国大統領選挙でドナルド・トランプ氏(71)が意外な圧勝をしたことは米国民衆の現状への不満の根深さを示した。国際情勢への無知を露呈した暴言の連発と言動の品の無さには共和党の幹部達もあきれはてて支持を取り消し、米国のメディアのほとんどがクリントン支持を表明する中、失業や貧富の格差拡大に怒る大衆は現状打破の希望を彼に託した。

 これには十分な予兆があって、2011年9月から数千人がウォール街を占拠する「99%の乱」が起き全米各地に波及していた。米国では1%の人々が資産の34.6%を握っているから、そうでない99%の人々の怒りがウォール街などでの座り込みに顕れたのだ。米国では上位20%の人々が資産の85.1%を保有している。過去30年間で物価高を差し引いた実質所得が向上したのは人口の5分の1の上位20%だけ、次の20%はおおむね横ばい、残りの60%は減少したのだから、ただでは済まない情勢だった。

 こうなった一因はレーガン政権(1981〜89)の時代に、それまで11%〜50%だった所得税率を15%と28%の2段にしたことだ。低所得者の税率を上げ、高所得者は減税し、「小さい政府」を唱えて福祉を削る一方、国防予算を増大した。

 また米国では相続税が掛かるのは、1人が残す遺産が543万ドル(5.7億円)以上の場合で、夫婦間の相続税は無いから、父母がそれぞれ5.7億円を子に残せば11億円以上が無税になると言われる。これでは資産格差が広がるのも当然だ。

 さらには生命保険金の受取りも無税だから富豪は巨額の保険を掛けたり、財団を作って資産を寄付し、子供が理事となって運用する、などの抜け道が設けられている。トランプ氏もまさにそうした手法で不動産業の父親から資産を受け継ぎ、今年9月の「フォーブス」誌の調査では、37億ドル(約3900億円)までに増やしたが、過去18年間国税の支払いを合法的な「節税」で免れていたとも報じられている。

 彼は没落する下位中産階級や白人貧困層の憎悪の対象の1人となってもおかしくないように思われる。むしろそういう人々は「公立大学無償化」など、やや社会主義的政策を唱えた民主党のバーニー・サンダース上院議員を支持する方が筋だろうが、米国の大衆は「力強い成功者」にあこがれるのだろう。