独り暮らしの人が誰にもみとられず死後に発見される孤独死は、先進諸国で深刻な社会問題になっている。なかでも高齢化が未曽有のペースで進む日本の状況は厳しい。しかし、高齢者の孤独は家族との同居だけで解決できる問題ではなく、ましてや夫婦関係が破綻していても離婚せず同居を続けることが多い日本では、いわゆる「リビング・トゥゲザー・ロンリネス(同居による孤独)」という別の問題も深刻だ。孤独死問題に長年取り組み、関連著書も多いニューヨーク大学のエリック・クリネンバーグ教授に、社会的孤立の真の問題点と克服策を聞いた。(聞き手/ジャーナリスト 矢部武)

――日本では独居者(単身者)が増え、孤独死が深刻化しているが、米国ではどのような状況か?

夫婦関係が破綻しても同じ屋根の下に暮らす<br />「リビング・トゥゲザー・ロンリネス」の悲劇<br />~孤独死、同居の孤独…日本は世界の反面教師?エリック・クリネンバーグ
(Eric Klinenberg)
ニューヨーク大学社会学部教授、同大学学報誌「パブリック・カルチャー」編集長を兼務。都市研究、リスクと災害、メディアと文化などが専門。早くから都市部の孤独死問題に取り組み、独居者の社会的孤立を防ぐセーフティネットの必要性を提言している。シカゴの独居高齢者の孤独死を調査分析した著書「Heat Wave: A Social Autopsy of Disaster in Chicago」(2003年)は6つの学術賞を受賞し、同名の演劇の原案ともなった。また、独居者の社交性や自己管理能力、自由や自立などポジティブな面を探った新刊「Solo」が2011年2月に発売される。カリフォルニア大学バークレー校で社会学の修士号・博士号を取得。

 独居者・単身世帯の増加は日本だけでなくほとんどの先進諸国で起きており、この50年間の世界における驚くべき社会的変化のひとつだ。米国も、もちろん例外ではなく、とくに独居高齢者が増えている。

 しかし、独り暮らしの人が必ずしも寂しい生活をし、社会的に孤立しているとは限らない。独り暮らしと寂しさ、孤立、自己疎外(自ら社会との関係を絶つ)などをはっきり区別して考える必要がある。

 米国では独居者の多くは社交的で友人や知人などと時間を過ごし、仕事もお金もさまざまなコミュニケーション手段もあり、深刻な問題とはなっていない。米国では社会的に孤立している独居者の割合はそれほど高くないと思う。

――しかし米国にも孤独死の問題はある。あなた自身、シカゴ地域の孤独死を調査分析し、2003年に出版した著書でそれを示した。

 1995年7月のある1週間にシカゴで亡くなった700人について調査・分析した結果、数百人が孤独死で、うちほとんどは高齢者だったことがわかった。

 シカゴといえばコミュニティの絆が強いことで有名だが、そのような都市で多くの高齢者が孤独死したことに私は衝撃を受けた。その原因は夏の暑さだけでなく、独居高齢者の支援ネットワークが不十分だったことも関係していたのではないかと本のなかで指摘した。

 しかし、これはシカゴだけの問題ではなく、今日の高度管理社会ではどこに住んでいても独居者は孤独死する可能性を秘めている。独居者や高齢者の増加現象は今や世界中に広がっており、とくに北欧など経済が発展して強い社会福祉をもつ国ほど独居者が増えている。米国では子供や親戚と同居したり、老人ホームなどに入るよりも独り暮らしを好む高齢者が多い。

 私たちはこの社会的変化にどう対応するかを真剣に考えなければならない。独居者のなかには寂しさを感じ、社会的に孤立してしまう人もいるからだ。