『週刊ダイヤモンド』11月26日号の第1特集は「リスクを学んで投資に勝つ!株・投信・債券・為替の新常識」。ドナルド・トランプ氏の米大統領選の勝利で、株式や外国為替相場にはなぜか楽観ムードが広がり、円安株高の流れが続いています。一方で、相場の日々の値動きはいまだ荒く、まだ収まる様子はありません。今後想定される市場リスクとは一体何か。これから投資を始める初心者の人にも分かるよう徹底解説します。

「ほんとパニックでしたね。おかげで耳が痛くなりました」

 大手証券会社で個人顧客を相手にする営業担当者は、苦笑いする。11月9日午後。ドナルド・トランプ氏の米大統領選勝利が濃厚になると、数百台あるオフィスの電話が一斉に鳴りだした。

「今後の相場は一体どうなるんですか」「米国の不動産投資信託を持っている。ほんとに大丈夫なのか」。相場の大暴落を懸念した顧客からの電話は、昼過ぎから夕方まで鳴り続けたという。

無理もない。米次期大統領が金融市場に投げ込んだリスクは、それほど大きかった。

 9日午後の日本の株式市場は激しく動揺した。東京証券取引所1部に上場する1989銘柄のうち、ほぼ全てといえる97%に当たる銘柄が一斉に値下がりしたのだ。

 日中の日経平均株価の変動幅は1315円に達し、2000年以降で見ると4番目の「特大リスク」だった。

 お膝元の米国も大きく揺れた。ダウ工業株30種平均は上昇して始まり、株安の連鎖は避けられたものの、その裏で米国債の金利が急騰していたのだ。

 9日の米30年債の金利は2・84%。前日に比べ0・23%も上昇し、その上昇率は実に30年以上ぶりのものだった。今までどうあがいても立ち上がらず、横に寝ていた米国債の利回り曲線(イールドカーブ)が、「トランプ相場」によって一気に急峻化したわけだ。

 翌10日。強気の米株式市場に刺激を受けたように、日本の株式市場は大幅反発。今度は東証1部の97%の銘柄が値上がりするという「狂乱」ぶりだった。

 実物としての裏付けがあり安全資産とされる金でも、米大統領選を挟んで先物価格が乱高下。ドル円相場はその後、5カ月ぶりに109円台まで一時下落した。

 足元では、ダウ平均が4日連続で最高値を更新するなど市場には楽観ムードが広がり、リスクは収まったかのように見える。 

 しかしながら、金融市場において「リスク(標準偏差)」とは、株安や円高が進むことでは決してない。それまで見られなかったような大きな動きで、価格が変動することこそがリスクなのだ。

 であるならば、リスクはまだ収まったとはいえない。

 米国債で変動幅の大きさを示す関連指数は4日連続で上昇しており、ドル円相場では10月の日中平均変動幅に比べ、2倍近い値動きが、米大統領選以降続いているわけだ。

 投資に臨むに当たって最も重要なのは、その商品が持つ固有の「リスク(値動きの荒さ)」を知り、その値動きに振り回されないような資金配分を設定することだ。

 トランプ氏の発言の真意は何か、ではなく、その発言によって一体どれほど相場が変動したのか。トランプ相場に勝つために、投資初心者がまず持つべき視点はそこにある。

ハイリスク投資に向かう富裕層と高齢者

『週刊ダイヤモンド』11月26日号の第1特集は「リスクを学んで投資に勝つ!株・投信・債券・為替の新常識」です。本誌が実施した「お金に関する5000人アンケート」では、身構える中間所得層を尻目に、富裕層がリスクを見極めながら、資金を大きく投資に振り向けている実態が見えてきました。

 年収1500万円以上の世帯で、金融資産のうち株式が占める割合は15%。平均的な世帯の約2倍の水準で、不動産投資信託(REIT)の割合も同2倍に上ります。

 特に、豊富な老後資金を持つ高齢者が飛びついているのが、米国の不動産を対象にした海外REIT。銀行の定期預金に1000万円預けても、1年で3000円の金利しかつかない時代に、平均で5%前後(1000万円で50万円前後)の利回りを得られるとあって、投資マネーが一気に流入し純資産が1兆円を超えるファンドが次々と誕生しています。

 一方で、気を付けたいのは、海外REITの高いリスクを十分に理解せずに、むしろ目をつぶるようにして投資するような姿が垣間見えることです。

 トランプ相場によって価格の乱高下が珍しくなくなった今、投資のリスクとリターンは一体どう変わっているのか。株、投資信託、債券、外国為替(FX)では足元で何が起きているのか。舞台裏に隠れたリスクを、投資初心者にも分かるよう丁寧に解き明かしました。波乱の相場を勝ちぬく材料となるよう、是非ご覧ください。