2009年の実質GDP成長率が5%であり、860社を超える日系企業が進出するベトナム社会主義共和国。約15年前の1997年、NTT東日本の子会社であるNTTベトナムは、ベトナム郵電公社(VNPT)と事業提携し、首都ハノイで電話回線を敷設した。その契約が終結する12年を前に、今度は親会社のNTT東日本がVNPTと光回線の共同事業化に乗り出す。(「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)

 34歳のときだった。

 現在、NTTベトナムを切り盛りする福山正文氏(56歳)は、三女が七五三を迎える時期に、青年海外協力隊の一員として、飛行機を2回乗り継ぎ、1人で南太平洋の島国バヌアツに向かった。

 じつはその前年に、試験に合格し、南米のコロンビアに派遣が決まっていたが、上司の猛反対に遭って断念していた。だから2回目となるバヌアツ行きに対し、「世界を見てみたい」という福山氏の意思は固く、妻もしぶしぶ2年間の不在を承諾してくれた。

国内専業のはずのNTT東日本が<br />15年間もベトナムを支援した理由ベトナム人にとって、原付バイクは貴重な移動手段。朝夕の目抜き通りでは、“イナゴの大群”のような通勤ラッシュが見られる。排気ガスがひどいので、防塵マスクを着けている人も多い

 1980年代の後半、まだ1社体制だったNTTは、青年海外協力隊に社員を参加させることに力を入れていた。青年海外協力隊は、天皇陛下に謁見してから赴任するように、日本が国家として行う国際貢献ボランティア活動で、病気や交通事故で1年に数人の死者が出るという命がけの任務である。

 福山氏は、帰国してから社内の出世コースをはずれたことを知るが、すぐ頭を切り替えた。その後は、発展途上国の通信インフラの整備に活路を見出し、国内専業のイメージが強いNTT東日本のなかでは異色の“海外畑20年”というキャリアを歩む。ベトナムに惚れ込んだ福山氏は、「もう通算で12年かかわっている。ベトナムに骨を埋めたい」と笑う。