だが幸一も負けてはいない。そもそも準備もせずに飛び込んだのは、日本ラバブル社とすでに提携している余裕の表れでもあった。彼らと独占販売契約を結んでいる以上、エクスキュージットフォーム社とも提携できるとは、はなから思っていなかったのだ。

「キョウト……マイカンパニー……プリーズカム……」

 すぐには結論を出せないが、是非一度京都にお越しくださいと言ってその日は別れた。

 これには幸一なりの深謀遠慮があった。

 (こちらが惚れるより、相手を先に惚れさせることだ)

 恋もビジネスも基本は同じだ。

 彼らは“キョウトまでおいでください”という幸一の言葉を社交辞令と受けとめる人種ではない。早速自分たちのスケジュールを調整しはじめた。そして彼らにとって最速の日程であったこのわずか5日後、二人そろって京都に訪ねてきた。

 ここからが本当の駆け引きだ。幸一も5日間ぼうっとしていたわけではない。彼の練りに練った作戦が展開された。

 この日はちゃんと通訳も置いて商談の席に臨み、まず相手のプライドに訴えた。

「実を言うと、貴社より前にラバブル社と販売提携を結んでしまったんです。それも100万円も保証金を積まされて。彼らは自分たちがアメリカで一番のメーカーだと言っていました」

 欧米人はすぐ感情を表に出す。

 最初は海外でも有名な古都京都に来たという旅行気分も手伝って、すこぶる機嫌が良かったが、幸一の言葉が英語に訳されるやいなや真っ赤になって怒り始めた。

「けしからん。ラバブルなどうちの敵ではない。知らない日本人を相手によくそんなことが言えたもんだ」

 幸一は表情を変えずにいたが、この瞬間、

 (ひっかかった!)

 と内心ほくそ笑んでいた。