トランプ騒動ですこし間が空いてしまったが、今秋に中南米カリブを旅行したときの話に戻りたい。
ボリビアは南米のなかでは日本人に知られているとはいえないが、旅行者にとってはとても興味深い国だ。なんといってもこの国には、これまで見たことのない光景がたくさんある。
ボリビアはブラジル、アルゼンチン、パラグアイ、チリ、ペルーに囲まれた内陸国で、標高3000~4000メートルのアンデス山脈地域と、アマゾンの熱帯雨林地域に大きく分かれている。
ボリビアにはポトシ銀山があり、スペイン植民地時代は帝国のもっとも重要な領土で、ペルー副王が統治する「アルト・ペルー(高地ペルー)」と呼ばれた。19世紀に入ると南米各地でクリオーリョ(南米生まれのスペイン系白人で、宗主国のスペイン人に従属する二級市民として扱われた)の反乱が起き、1824年にシモン・ボリバル(ベネズエラの名家に生まれたクリオーリョ)率いる解放軍がスペイン軍を破るとアルト・ペルー共和国として独立、その後ボリバルの名をとってボリビアを国名とした。
世界一標高の高い首都
ボリビアの実質的な首都はアンデス山脈にあるラパスで、富士山山頂とほぼ同じ標高3600メートルに位置する「世界一標高の高い首都」だ。しかしここに街がつくられたのは「標高が低い」からで、ラパスの玄関口エル・アルト国際空港は標高4061メートルにある。ラパスは、アンデス山脈のすり鉢状になった底にある街なのだ。
このようにいってもうまく理解できないだろうから、あとは写真を見てもらおう。空港からタクシーに乗ると、すり鉢の底に向かって一気に400メートルを下ることになる。

あまりにも坂が急なため徒歩での移動は困難で、車やバスに頼るほかない。そのため近年は交通渋滞が深刻化しているが、公共交通網として登山電車を敷設するのはコストがかかるためミ・テレフェリコと呼ばれるケーブルカーが活躍している。2014年にラパスとエル・アルトを結ぶ「赤線」が開通したあと、現在は「黄線」「緑線」が加わって3路線になった。都市交通としては世界一高いところを運行する世界最長のロープウェイだ。

国際空港の周辺にはエル・アルトの町がある。都市化によって人口が増え、地価が上昇して郊外化が起こるのは世界じゅうどこでも同じだが、すり鉢の底にあるラパスにとって、「郊外」とは標高4000メートルの高地なのだ。
エル・アルトの住民はインディオが多く、ここからバスやロープウェイを使ってラパスまで働きにいく。住宅は「アドベ」と呼ばれる日干しレンガのブロックでつくられているが、なぜかほとんどが建築途中のように見える。ガイドの説明によると、ボリビアでは住宅が完成した時点で税が発生するため、税金を払いたくない場合は家を完成させずにそのまま放置するのだという。


エル・アルトの町を出ると、プーナ(草原)と呼ばれる広大な高原地帯に出る。見渡す限り平坦な土地が広がるが、ここは富士山より高い標高4000メートルを超えており、アンデス山脈の巨大さには感嘆するほかない。

高地に適応したボリビアのひとたちとはいえ、やはり標高4000メートルを超える生活は楽ではない。そのためひとびとは少しでも標高の低いところに移り住むようになり、こうしてすり鉢状になった地形の底にラパスがつくられた。ここでは坂を下ると高級住宅地で、貧しいひとたちは高いところに住んでいる。
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