――トランプ氏の勝利を受けて一時混乱した金融市場は、選挙後の演説が現実路線だったことを好感し、足もとでは強含みになっています。マーケットもトランプ政権の「見定め」に苦労しているように感じます。

 そうですね。トランプ氏の選挙後の演説が意外にまともだったと言われますが、実際は選挙中にもまともな演説はありました。しかし、まともな発言をしたかと思えば数日後にセンセーショナルな発言をしたりと、あの選挙戦では「よいトランプ」と「悪いトランプ」が交互に出て来たため、市場も振り回されました。

 大統領就任後も同じだと思います。もう「悪いトランプ」が出てこないかといえば、それはわからない。ただ、市場は先にストーリーをつくって動くので、今は「よいトランプ」を織り込んで動いている状況です。

 現状はトランプ氏に求心力があるので、彼はあえて「悪いトランプ」を出す必要がなく、政権は安定する可能性があります。逆に、財政出動が長期金利の上昇を招き、新興国からマネーが流出するといった不安な事態が起きると、世論が逆回転を起こすリスクはある。そうなると求心力を取り戻すために、移民制限や保護主義を推し進める「悪いトランプ」が出てきかねません。

「悪いトランプ」が出てきたら?
不安はTPPよりも既存の貿易協定

――トランプ氏を支えるブレーンたちの政治手腕にも注目が集まります。大統領首席補佐官にラインス・プリーバス氏(共和党全国委員長)、戦略担当顧問にスティーブン・バノン氏(トランプ陣営の選挙対策最高責任者)を起用する人事が発表されましたが、あまりにもタイプが違う人選ではないかと批評する向きもあります。スタッフの人選や機能をどう見ますか。

 トランプ氏は、バランスを取った布陣を意識したように見えます。首席補佐官には共和党主流派との橋渡しを重視したプリーバス氏、上級顧問には反エスタブリッシュメント層へのアピールを重視したバノン氏という全く違うタイプの人材を起用し、お互いに競わせるという、ある意味古典的な人事です。

 今後は前者が政策を、後者が政治を担当することになるでしょうが、2人の間には綱引きも生じるでしょう。元経営者としてのマネジメント経験を生かして、それをトランプ氏がどう舵取りし、能力を発揮させていくかにかかっています。

――「悪いトランプ」が出たときに、世界に与える影響はどうなるでしょうか。経済面で最も影響が大きそうなのは保護主義政策です。少なくとも現状において、TPPは進展の可能性がほぼなくなったように思えますが。

 保護主義が強まることは世界にとっても米国にとっても確実にマイナスです。ただ、それは2つのレベルに分けて考えた方がいい。TPPはまだ実現していない取り組みであり、それが頓挫しても、将来期待していた効果が得られないというデメリットだけで済みます。