ところで、よく見るとオバタさんのグラスだけ違う。クリスタル製で、切り子の文様が入っている。

「なんとなく、この方がおいしそうかなと思って」

 つまりは、このグラスも持ち込み。自作の料理で好きなワインを楽しんだ後は、シェフによる特製メニューでシメるのが定番だ。

 シェフも、そんなオバタさんの好みは熟知しているようで、フレンチが専門のはずなのにこんな提案までしてくれる。

「今日は、稲庭うどんあるよ」

 週末の昼下がり、ワインをいただきながらの取材となった。

ランチ予算は1日1000円!
既婚者では味わえない?贅沢な定食

「こうして飲むのは1週間ぶり。会社の健康診断で、血糖値400、中性脂肪1200って出ちゃいましたからねえ……」

 せ、せんにひゃく、と声が裏返りそうになる。

「普通より、少し高いみたいなんです」

 実際は、少しではなくてかなり高い。糖尿病の疑いがあるとされる血糖値は、空腹時で126mg/dl以上、ブドウ糖負荷試験をした場合で200mg/dl以上だ。中性脂肪の基準値とされているのは150mg/dL。オバタさんの場合、いずれも大きく上回っている。

「どうしてそんなになるまで……」と心配になるものの、本人はその危険性も十二分に認識した上で、酒を飲んでいる。

「このまま放置すれば、失明か四肢の切断もあり得る。透析しなきゃいけなくなることもある、と聞いています」

 わかってはいるが、やめられない。無理にやめると、ストレスがかかってかえって体に良くない。断酒できない言い訳は、禁煙しようとしてできない人の言い訳とよく似ている。

 そんなオバタさんの仕事は、空調設備のメンテナンス。サラリーマンである。

「おととしまでは作る方にいましたが、今は修理の方をやっています」