日銀が物価の基調を示す指標として試算している生鮮食品とエネルギーを除いた消費者物価(日銀版コアコアCPI)は、15年12月に前年比1.3%上昇と直近ピークを付けた後、すう勢的に下落。昨年11月には同0.2%上昇まで、プラス幅が縮小している。足元のインフレ期待は「弱含みの局面が続いている」と認めざるを得ない状況にある。

賃上げ、強気になり切れない労組

 物価2%目標の達成には、先行きのインフレ期待の高まりが不可欠だが、最も重視している今年の賃上げは、昨年の円高進行で企業収益の下振れが見込まれる中、経営サイドは引き続き慎重姿勢。

 ロイターが資本金10億円以上の中堅・大企業400社を対象に1月4日-17日に実施した調査では、63%が今春闘において「ベアを実施しない方向」と回答している。

 また、春闘の相場形成に最も影響力のあるトヨタ自動車では、労働組合側が年間一時金の要求水準を前年の7.1ヵ月分から6.3ヵ月分に引き下げた。

 さらに労使交渉では、物価の実績が重視される傾向があり、コアCPIが昨年4月以降、マイナス圏に沈んでいることも賃上げ機運が盛り上がりを欠く一因に指摘されている。

 しかし、これまで物価の押し下げ要因となっていたエネルギー価格下落の影響は、着実に減衰しており、今年の物価が上昇に転じるのは確実。相応の賃上げが実現しなければ、せっかく明るさが見えてきた個人消費に水を差しかねず、経済の好循環とインフレ期待の上昇でデフレ脱却を狙う政府・日銀はいら立ちを隠さない。

保護主義の色彩強めるトランプ発言

 トランプ政権への期待から急速に進行した円安も、同大統領が貿易不均衡問題で日本を名指しするなど保護主義的な政策への懸念を反映し、足元ではドル安/円高方向への動きも見え始めた。市場では、同大統領の発信に一喜一憂する不安定な相場展開が続いている。

 輸出企業を中心に円安は収益の上振れ要因になるものの、変動の激しい市場動向が「企業の不透明感を強める一因になっている」(国内金融機関)との指摘が少なくない。企業や家計のインフレ期待が高まらなければ、円安による価格転嫁や需給ギャップの改善も進まず、むしろコストアップが強く意識される展開も否定できない、というわけだ。

 足元の物価が日銀の想定より弱めで推移していることもあり、次回の展望リポートにおける17年度の物価見通しの上振れは、微修正の範囲内にとどまる可能性が大きい。日銀では現在、物価2%の達成を18年度ごろと見込んでいるが、黒田東彦総裁が指摘する「追い風」を感じながらも、確信を深めるには依然として材料不足のようだ。

(伊藤純夫 編集:田巻一彦)