「郵政民営化の見直し」が民主党・国民新党の公約であり、いわゆる「小泉・竹中路線」は、格差を拡大した元凶として手厳しく批判されている。一度基本に立ち返り、小泉・竹中路線の財政金融政策の目指していたものは何だったのか、それと比較して現政権の財政金融政策はどう評価されるべきなのかを考えてみたい。

小泉政権の基本理念と財政方針

(1)基本理念

 2001年4月に発足した小泉政権は、直後の小泉総理の所信表明演説において「改革なくして成長なし」の理念の下、「恐れず、ひるまず、とらわれず」の姿勢で既得権益や既成概念と戦う姿勢を明確にした。その理念や姿勢を具体化したのが、同年6月に発表された「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」(骨太の方針)である。

 そこでは、不良債権問題の抜本的解決を大前提とした上で、7つの構造改革プログラムが列挙されている。その中で、最も小泉・竹中路線の象徴となる項目が「民間でできることは民間で」という大原則に基づく、広範な規制緩和と民営化の主張である。この規制緩和路線は、その後「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」の中でも「民間の活力を阻む規制・制度や政府の関与を取り除き、民間需要を創造する」とされ、マクロ資金循環面についてはより具体的に「資金の面でも“官から民へ”の流れが戻り、家計の豊富な金融資産が民間の成長分野に円滑に供給されるよう改革する」と明記された。

 小泉政権が理想としていたのは、「21世紀の日本では、実力に見合った経済成長が実現する。そこでは、国民が自信と誇りに満ち、努力する者が夢と希望を持って活躍し、市場のルールと社会正義が重視される」(骨太の方針冒頭言)という社会であった。

(2)財政再建問題

 財政政策について特徴的なのは、「経済財政諮問会議において経済財政全般についての横断的な検討を行なう」という方針である。その根底にある思想は、骨太の方針の中に「我が国の諸制度は、戦後非常によく機能し、高度成長を支えてきた。しかし、現在ではそれがややもすれば非効率な(すなわち費用に見合う効果を生まない)事業等を生む仕組みになってしまっている」と記されているように、非効率でありながら硬直的に配分されてきた公共事業等の枠組みに対する問題意識であった。省庁縦割りの予算要求に基づき財務省が割り振るという従来の仕組みではなく、マクロ経済の状況と整合的に、しかも真に必要とされる社会資本整備に集中配分するための司令塔が経済財政諮問会議であった。

 そして、財政再建については、プライマリーバランスの黒字化を2010年代初頭に実現することが中期目標として明記されていた。2006年7月に発表された小泉政権最後の「骨太の方針」においては、その後のプライマリーバランス黒字化の定着に向けての方針は概ね以下のようになっている。注目すべきなのは、①成長戦略、②歳出削減、③主として社会保障制度維持のための増税の可能性、の3点のバランスを取っている点であろう。

・ 名目経済成長率3%程度の前提に基づいて、必要な改革措置を講ずる。
・ 経済社会情勢の変化に適切に対応しながら、基礎的財政収支を黒字化するという目標を達成していくため、歳出改革をするが、その内容について柔軟に対応。
・ 公平で持続可能な社会保障制度とするため、基礎年金国庫負担の2分の1までの引き上げに要する財源を含め、安定財源を確保する
・ 歳出削減を行ってなお、要対応額を満たさない部分については、歳出・歳入一体改革を実現すべく、歳入改革による増収措置で対応。
・ 歳出削減や歳入改革が経済成長にマイナスの影響を及ぼし、当初想定した税収が実現できなくなることも懸念されるので、財政健全化を着実に推進していくためにも、高めの成長を目指した経済成長戦略は不可欠の政策対応であり、両者を車の両輪として、一体的に進めていく。