上海市民が上海の生活について行けなくなった。不動産価格の高騰が招く物価の高騰、上がらない賃金による生活苦。上海万博を前に格差は広まり、矛盾がますます浮き彫りになる。不動産を原因としたマイナススパイラルだと言い切る者もいる。

 国慶節の休日に上海で開かれた不動産展示会、初日の10月3日には約4万人が訪れた。会場の外には不動産各社がチャーターした大型観光バスがズラリ。購入検討者をそのまま現地のモデルルームに案内する算段だ。が、ほとんどのバスがガラ空きだった。

 人いきれで熱気を帯びているかに見える会場だが、よく見ると二分されていることがわかる。人だかりがあるブースとそうでないブース。平米単価1万2000~1万5000元以下の物件を地元記者たちは「平民マンション」と呼んだが、確かにそれらブースには「持たざる一般市民」(*1)が列をなした。

(*1)この原稿で定義する一般市民とは世帯(3人家族)月収7000~8000元の中流の人々。

 狂乱の不動産価格に「今こそ買わないと」と焦る一次取得者たちが、現地行きのバスに乗ろうと登録窓口に殺到した。マイホームの購入こそが人生最大の価値、それがないのはこの上ない屈辱なだけに必死だ。だが、買える家と住める家とは別物のようで、立地条件の悪さに二の足を踏んだか、会期中の成約は少なく参観のみが目立った。

 実際、外環状線の内側に平米単価2万元(1元=約14円)で買える新築物件はほとんどない。上海万博の開催地に決定した翌日(02年12月)から上海の不動産価格は上昇を続け、今では上海の中心部(=外環状線の内側)は東京の港区に相当するような億ションの街になってしまった。浦東新区の高級マンション「湯臣一品」は世界一の平米単価と言われる。

 昨今は売り惜しみも問題だ。「ある物件はまだ竣工していないのに『売る部屋がない』、ある物件は『引き渡しは来年だ』と言われた」と30代のサラリーマンは嘆く。値上がりを待っているのか、今年はすでに売り上げ目標に達してしまったのか、それとも誰かが青田買いをしたのか。買いたくても売ってもらえない彼の悩みは、結婚延期(*2)も現実的なだけに深刻だ。

(*2)上海では男性が新居を準備して初めて結婚できるという習慣がある。