イスラム教徒=テロリストという印象をもたれることにたいして、一般的なイスラム教徒はどう思っているのでしょうか。日本では珍しい女性の中東研究家として活躍する岩永尚子先生が、アメリカの調査機関のアンケート結果およびQ&Aサイトの議論から分析します。
今回のご質問には、アメリカの調査機関であるピュー研究所(Pew Research Center)の世論調査結果から答えていきます。ですが、アンケートの数値だけでは、すこし具体性に乏しくなってしまいがちなため、「Quora(クオーラ)」 というアメリカのQ&Aサイトで、この問題がどのように議論されているのかについて検討してから始めたいと思います。
Quoraというサイトは、アメリカのQ&Aサイトの中でも5大サイトのひとつに数えられており、参加者もかなりの数にのぼっています。このサイトの最大の特徴は、創始者がフェイスブック関係者ということもあり、実名で回答することです。ページを閲覧する際に会員になるか、もしくはフェイスブックにアカウントを持っている人はフェイスブックをリンクさせる必要があります。そのため、サイトが比較的荒れず、まじめな回答が多いといわれています。
ISISとイスラム教徒は同じでない
このサイトでまさに ”How do ordinary Muslims feel about Islamic terrorism?(ふつうのイスラム教徒はイスラム的テロリズムをどう感じているのですか?) ”という質問を見つけることができました。
回答はいずれも「ISISとイスラム教徒は同じではないので混同しないでほしい」という趣旨なのですが、それを説明する方法はさまざまです。説明のパターンをおおまかに分類すると、以下の4つに大別できました。
1) イスラム教がテロリズムを支持していないことを、コーランや予言者ムハンマドの言行を記したハディースなど、つまりイスラムの教えから引用して議論する。
2) 現代のイスラムの法学者や宗教学者がISISに対する非難を行なっていることを示す。たとえばテロに対して反対するファトワー(イスラム法学にもとづいて行なわれる勧告)は、すでに600ページを超えているなど。
3) 世界各国の普通のイスラム教徒が、ISISやテロに反対するデモなどを行なっている写真や動画を多数紹介して、自分の周囲の人々はもちろん、他のイスラム教徒も実際に反対していることを示す。
4) これから紹介するピュー研究所の調査結果など、アンケート結果の数値にもとづいて議論する。
さらに、類似した質問としては、「イスラム教徒はイスラム国(ISIS: 原文のまま)のようなテロリズムに対して、どのように対峙しているのですか?」とか、「もしイスラム教徒がISISの行為が悪いことだと思うのであれば、なぜ彼らは公然と反対を表明しないのですか?」などもありました。
これらの質問においても同じような回答のパターンがみられました。どの回答からも「テロリストとイスラム教徒を混同しないでほしい」、「もっとイスラム教徒について知ってほしい」という願いが強く感じられました。

次のページ>> 3分の2以上の調査対象者がISISに否定的
|
|