2万5000円のトースターが爆発的にヒットした理由寺尾 玄・バルミューダ社長 photo by Toshiaki Usami

 こんがり焼けた厚切りトーストの上でとろけるバター。表面がぐつぐつと溶け出して少し焦げ目が付いた熱々のチーズトースト。

 思わずよだれが出そうな画像が並んでいるのは、家電ベンチャーのバルミューダが販売する「ザ・トースター」のホームページだ。商品そのものの画像よりも、おいしそうなパンや料理のレシピ画像の方が圧倒的に多い。それは、同社創業者で社長の寺尾玄が、「われわれが売っているのはモノではなく体験」だと考えているからだ。

「『2万5000円のトースター』と言われると私も高いと感じる。でも、『世界一のバタートーストを食べたくないですか』と聞かれたら、食べてみたいと思う」

 価格や機能を訴求するのではなく、食べてみたい、作ってみたいというワクワクする体験を提案することで消費者の心を捉えた。数千円が相場のトースター市場では飛び抜けて高い価格にもかかわらず、2015年6月の発売以来、累計で20万台を売る大ヒットとなった。

「世界の役に立つ」夢を抱き
音楽からものづくりへ転身

 クリエーティブな心で思い描いたものを世の中に送り出して、世界の役に立ちたい──。

 寺尾がずっと心に抱き続ける信念だ。かつてはミュージシャンとしてその道を目指したが、夢半ばに終わる。だが「情熱は消えなかった」。03年、音楽ではなくものづくりで夢の実現を目指そうと、バルミューダデザイン(現バルミューダ)を設立した。