神戸大学の同僚の加登豊教授から連載執筆をバトンタッチした平野です。読者のみなさんどうぞよろしくお願いします。

「組織は戦略に従う」という
命題は常に正しいか

 わたしの専門は人材マネジメント論で「人と組織の最適な相互関係のあり方を追求する」ことをテーマとしている。

 しかし、このたび東北・関東地方を襲った大地震の破壊力を目の当たりにして、人間と組織の限界を思い知らされている。震災の惨状を伝える映像やニュースを見て、不安な避難生活を余儀なくされている方々や、大切な家族を失った方々の凄絶な体験に思いを馳せるとき、わが身の無力感に苛まれる。

 しかし、被災地の方々の復興に向けた力強い一歩が、そこかしこで始まっているという報告もある。心理学では「レジリエンス」(resilience)という考え方がある。これは困難な状況にもかかわらず、うまく適応出来る人間の力を指す。言い換えれば「折れない心」だ。復興や創造は人間の折れない心から始まる。経営も同様だろう。戦略から始まるのではなく、「経営とは人を起点とした営みである」という当たり前のことに気づかされる。

 「組織は戦略に従う」とは、アメリカの歴史学者アルフレッド・チャンドラーが打ち立てた有名な命題だが、これは戦略を組織を規定する上位概念に位置付ける。同様に、戦略的製品開発、戦略的マーケティング、戦略的SCM(サプライ・チェーン・マネジメント)といった具合に、戦略をマネジメントの上位に位置づける考え方は、枚挙に暇がない。後で解説するが、戦略人事も同様である。しかし、戦略を起点とする考え方は常に正しいのだろうか。